子犬、我が部屋で寝る事になる。
蛍光灯のスイッチを引き、起き抜けのままの布団にもぐり込み、
初めて抱いた子犬の事を思う。
下からは、妻や、子供達の語らい、
そして時々「クーン・クーン」と言う子犬の泣き声が聞こえてくる。
突然知らない所へつれてこられたためか?
私の腕の中で震える子犬。
可哀想でもあり、意地らしくもあった。
あんなに小さかったら、恐れる事もない様に思え、
おじいちゃんの代わりと思い、大切にに育てらそうな気もした。
一瞬、妻の望みをかなえてやってもいいかとも思えた。
そのほうが、妻や子供達と良好な関係でいられるし。
しかし、もう一人の自分が、
動物でも人間でも子供の頃は、可愛いものさ。
あの子犬が大きくなり、力も強くなった時の事を考えろ。
何かの弾みで野生にもどり、お前に襲ってきたらどうする?
手もつけられんぞ!
俺の指なんて、ひとたまりもなく噛みちぎられるぞ!
相手は畜生だ。
それに、おばあちゃんは、どうする?
85歳まで犬嫌いだったおばあちゃんが、急に変心するとは到底かんがえられない。
「やめておけ!やめとけ!飼うなんて馬鹿な事考えるのは、止めておけ!」と言う。
そんなどうどうめぐりを始めてから、1時間ぐらい過ぎたであろうか?
下から聞こえる声は、「クーン、クーン」と物悲しい泣き声のみになっていた。。
妻、子供達は、それぞれ自分の持ち場に戻ったらしい。
結論の先送りは、いつもの事。
明日は仕事だ。
今日は、もう寝ようと思い、寝間着に着替え、部屋の明かりを消す。
掛け布団を顔まで掛ける。
寝つきには自信があるのだが、今日はチョット様子が変だ。
眠りの入り口に入ろうとするところで、引き戻される。
「クーン・クーン」と言う泣き声に引き戻される。
そして、そんな事が3回も続くと、
一人きりにされた子犬が、可哀想に思え、
又、ほったらかしにしている妻の態度が、無責任そのものに思えてきた。
もう、我慢できない!
布団から飛び起き、階段を駆け下り、妻のもとへ
「おい、犬が泣いてるぞ!何とかせんか!可哀想やろ!
おまえちゅう奴は、本当に無責任な奴や!
勝手に犬もらってきて、その挙句その犬が泣いてても、ほっぱらかし。
俺には、考えられん!何とかしろ!」と
大声で怒鳴る。
私の怒りにビックリしたのか?
母親と仲の良い長女(19歳)が、自分の部屋から出てきて、母親を弁護し始める。
「おとうさん!犬は新しい環境になったら、不安と寂しさの為、泣くんだって。
インターネットで調べたら、犬の飼い方っていうサイトにそう書いてあったよ。
お母さんも、犬が泣いているの知ってるよ。でもどうする事も出来ないんだって。
べつにお母さん、無責任じゃないからね!」と
いつの時でも、彼女は、妻と私が喧嘩した時、必ず妻の味方をする。
そして、いつもチョッピリ悲しい気分にさせられる。
涙目になりながら、私のぐうたらな日常生活態度を引き合いにだし、妻の弁護をする。
大声で怒鳴って、チョッピリ気が済んだためか、
予期せぬ長女の反撃にあったためか、攻めの次の手が出てこない。
すこすこと、自分の部屋に戻りはじめる。
私の部屋に通じる階段の傍に、子犬がいる。
ダンボール箱の中で、丸まっている。
子犬を見入る。
時々「クーン・クーン」と泣く。
腰を曲げ、そっと 頭をなでてやる。
「俺も、大変だけど、知らない所に連れてこられ、こいつも大変だなー」と思う。
私は、犬に向かい、
「寂しいかー!俺の部屋で寝るかー」と言い、
ダンボール箱を抱え上げ、階段を昇り始めた。