皆既月食を見よう 哲3
さあ、月かかけ始めるよ。
「歩美先輩と何をしたんだよ?」
もうすぐ皆既月食が始まる。今は真美の部屋にいる。真美の部屋のベランダは南向きだから
今回の月食見るのには最適なんだよな。
でも、その前にあの策士に何を吹きこまれたのか確認しておかないと。
あの人はたまにとんでもないことを吹きこんで俺たちを振り回して楽しんでいる。
「あぁ、買い物だよ。どうして?」
机に向かって宿題をしていた彼女がくるりと向きを変えて正面を向く。
んん?何かが違う。ありったけの記憶をひっくり返して思い出してみる。
「哲?私なんか変?」
俺が戸惑っているのが真美に分かってしまったようだ。真美の目線が
自然と下に落ちたのを見逃さなかった。そうか、胸か。
ガン見は良くないだろうから全体を見るようにして見ていると胸が成長している。
いくらなんでも整形はないから…これは一体どういうことだ。
「すっごく大変だったんだから」
真美は俯きながら、恥ずかしそうに切り出した。
「歩美がね、彼氏とお泊りだから勝負下着を買いに行くって連れまわされたの」
申し訳ないが、口に含んだコーヒーを吹きそうになってしまった。
あの人が勝負下着ですか。ほほぉ。人を煽るだけ煽って…全く。
「お店の人にきちんとサイズ計ってもらったら…ちょっと大きくなったの。
でも、哲はグラドルみたいな巨乳が好きなんでしょ?私じゃまだまだよね」
おい、真美。何をいっているんだ?俺がいつおっぱい星人になってるんだ?
「ちょっと、待てよ。真美」
俺はとっさに真美の肩を掴んだ。
「もう少し言わせて。ずっと哲が好き。哲が巨乳が好きなら私努力するから。
こんな私じゃダメ?もう幼馴染なだけ?」
ずっと俺が言いたくても言えないことを何でこんなに簡単にこいつは言ってしまうんだろう?
「哲?ねぇ、哲はどうなの?」
不安そうに目を潤ませながら真美が俺を見つめる。
今まで必死に押さえていた理性が…プチンと切れた。
掴んだ肩を自分の方に引き寄せて抱き寄せた。
「俺な、おっぱい星人じゃねぇよ。ごめんな。そんなことで悩ませて。あんまり言わないからな。
覚えておけよ。俺の方が真美のことを好きだ。勉強嫌いの俺が必死になって今の学校に入れたのも
真美、お前がいたからだ。」
「哲…それって…」
「まだ終わってねぇぞ。体操の先生にならなくてもいい。俺と一緒に生きてくれないか?」
「それって、私でいいの?もっと素敵な人がいるかもしれないよ?」
こいつ、俺の告白本気にしていないな…。どうしたら分かるんだ。
「なぁ、俺の体力ならお前を力ずくで抱いてモノにもできる。その位お前が欲しいんだ。
なのに、お前は俺がおっぱい星人だと勘違いしてこんなことするから…俺の…」
言葉にしていいのか不安になって言葉を濁してしまった。
「哲、最後まで言って。何でもいいから。哲の気持ちが知りたい」
「理性がもたねぇ。皆既月食なんて無視しておじさん達に頭下げてお前を貰う」
俺がそう言った途端、真美の両目から大粒の涙がポロリと零れた。
「俺?やっぱりがっついていたよなぁ。ごめん、今の忘れて」
「違う。嬉しいの。そんなに哲に愛されてて。でも…その前に…」
その前に…その前に何があるんだ?
「父さんたちが覗きに来そうだから…ちゃんと皆既月食を見よう」
そういうと真美は俺の背中に恐る恐る腕を回した。
「でも、もう少しだけ…このままでいさせてくれよ。真美を感じさせてくれよ。
さっきは乱暴なこと言ったけど、そんな事はきょうはしないからさ」
「きょ、今日は?」
真美は不安そうに俺を見上げた。
「そう、月と同じように俺たちもリセットするんだから」
真美の頭を優しく撫でながら囁く。昔から頭を撫でられるの好きだからな。
「さあ、寒くないようにしてベランダに行こうか。冷えたら戻ろうな」
真美にハンガーにかけてあるベンチコートを渡してやる。体操の時のだから俺とお揃いだ。
「うん。約束だからね。風邪ひいたら哲のせいだって皆に言うもの」
俺のせいだって言われたら、違う方向で勘違いを受けそうだ。それは困る。
「真美、分かってるよ。さあ、皆既月食を見よう」
俺は彼女の手を取って彼女の家のベランダに出た。
哲 fin