漁村その②
王国組は、物語的にも旅路的にも歩みはスローです……(苦笑)
*****sideルーイリア・シェイル
さて、やっと安心して休息の取れる場に降り立ち、私も一安心しております!!
「腹減ったなぁ……さっさと飯食って寝ようぜ」
ガドガンは相変わらず身勝手でどうしようもありませんね。こういった者はたとえ神の身元へ呼ばれようとその本質は変わらないと良く言いますし、諦めるよりほかにはありません。
「うん、美味しい魚料理を食べてすぐに寝ればいい夢が見られるかもしれないねぇ」
陛下はとても嬉しそうに食事のお話をされておられますが、
「へい、ではなくディル、はしたないですよ?まだ宿に着いたばかりで、誰に聞かれるかわかりませんので謹んで下さい」
誤って、公共の場で陛下と口にしてしまうところでした。こんなところで身元を知られるわけには参りません、気をつけなくては。
「いらっしゃい、何人だい?」
宿の中へ足を踏み入れ、受付のあるカウンターへ向かうとそこには恰幅の良いご婦人が居られました。
「失礼いたします。私たちは」
今までは宿の対応など他者と関わる事柄は全てガドガンに任せ、金銭の支払いだけは私がおこなって居りましたが、たまには自分で交渉するのも良い勉強になるのでは?と思い、気軽な気持ちで丁寧に礼をして話しだすと、ガドガンが私とご婦人の前を遮り
「……三人だ。一泊するから三人一部屋か、それが駄目なら二人部屋と一人部屋に分けてくれ」
「……あいよ、ちょっと待っとくれ」
ご婦人はガドガンの言葉を聞き、少し考えるようなしぐさをして私の方をちらりと見てから、手元の台帳で部屋の確認をしているようでございます。ですが、それよりも!ガドガンはなぜ、と彼の顔がある高さへ顔を上げると……
「今は黙れ、後で話す」
険しい表情を浮かべ小声でそう言い捨てたガドガンは、次の瞬間にはいつもの脳みそまで筋肉な彼に戻り、私は……どうしてでしょう?とてもいけないことをしてしまったような気がして、胸がざわざわと落ち着きません。
「そうだねぇ……三人部屋は全部使用中だね。二人部屋と一人部屋なら隣同士並んだ部屋が二階の角にあるけど、どうするね?」
「あぁ、それで良い。料金は先払いで良いか?」
ガドガンは横目で私を見て宿のご婦人に問いかけます。
「勿論構わないよ、ちなみに風呂はこの宿を出て左にあまり大きくないけど海水沸かした大衆浴場があるし、食事は此処の一階が食堂兼酒場になってる。まぁここ以外にも美味しい食堂は沢山あるから声をかけてくれれば場所は教えるよ」
「助かる、それじゃ……おいルーイリア」
宿のご婦人へそう告げると、ガドガンはそれが当たり前かのように私の名を呼び、その無骨な厚い手のひらを差し出しました。
ざわざわと落ち着かない自らの胸に、ガドガンとは正反対の血管が透けて見えるほど白い手を置き、これはもしや平民の言う恋人のようなやり取りというものなのでは?とおかしなことが脳裏に浮かび、少々動揺してしまいました。
……昨夜寝物語に読んだ恋愛小説の影響でしょうか?
「……ぃ!おい!……ルー!!」
はっ……考え事を始めると外の声が聞こえなくなる悪い癖が出てしまったようです。ガドガンは……その額に青筋を浮かべ、とてつもなく怒っているように見えます。
「あ、お支払でしたね?おいくらになりますでしょうか」
しかし私はガドガンの眼力などに負けるわけには行きません!!と、言うことでその恐ろしげな視線はまるっと見なかったことにしまして何事もなくその場を潜り抜け……られたのだとその時は思って居りました。
……宿の部屋に入り、ガドガンに部屋の隅へと追い込まれるまでは!!
漁村その~は、もう少し続きます。