目標×決意
ゆらゆら ゆらゆら
熱湯の中でうとうと と微睡み、どれほど時間が経過したのか。この地中深い源泉の底にいる今は、陽の光も届かない以上分かるはずもない。
(あぁ、よくねた)
他に生き物のいない暗闇の中で、大きく欠伸をして、お湯の身体に必要かは知らないけれどぐぅーっと伸びをして気持ちの凝りを解すように腕を回す
(……それにしても暇ねぇ。何しようかしら?)
正直この世界に来てからと言うもの、寝ているか探索するかくらいで他にすることも無い。この地下源泉の後行こうと思っていた穴の先は危険だと手紙を読んで分かった以上、あの先へ進む気も起きないし。
(ふむ、そう言えばこの土って……日本なら泥のスパとかに使えるんじゃない?ミネラルとか豊富そうだし)
あぁ、私が人間だったなら、温泉に泥のスパに、これだけでも一日中リゾート気分満喫できそうなのに。むしろ、温泉宿とか経営出来るんじゃない?
(あ~あ、この身体さえお湯じゃなければ……。いや、よく考えたらお湯じゃなかったらこの泥も見つけられないし熱湯温泉にも入れないけど)
なんか、堂々巡りのような気もするけど、思い返せば地上の森に生えていた雑草だと思ったあの背の高い植物たちもそう考えると高級そうだったような……もしかしたら秘境の高麗人参みたいな高い薬草なのか?
(……採取して見ようかな)
温泉から長いこと離れるのは難しいけど、びゅっと行ってさっと帰ってくれば……。
(うん、やることも他に無いし。色々採取して干して、この泥も何かに使えるかも知れないし上に運んで乾かして見ようかな)
とりあえずは、一掬いだけを手に持ち、また出入り口となる狭い穴へ
(今度は流れに逆らわなくても良いから身を任せるだけで楽だわぁ~)
目下の目標を決めたことで、すぃ~と楽しげに泥を持ち穴を流れる私も所詮は唯のお湯、しかも色は周りの熱湯と同じ無色透明なので、はたから見ればただ丸い泥がお湯に押し流されているようにしか見えないだろうけど、今の気分はこの世界に来て初めてって言っても良いほど最高潮なのでまぁ気にしないでおこう!
(そうだ、この泥を乾かした土で何か植物を育ててみるのも良いかもしれない。意外と栄養分の豊富な美味しい野菜とか新発見の花とか出来るかも)
……温泉の淵に小さな畑と花壇を作るのも良いかもしれない。そうしたら、動物とかが食べ物目的で近づいてくるかもしれないし、可愛い生き物だったら仲良くなるのも楽しそう。
(なぁんだ、先代の手紙にはつまらないって書いてたけど。意外とこの温泉だけでも十分楽しく生活できそうじゃない)
少なくても、つまんないと言う理由で人間の男に恋することは絶対にない。と言い切れるし、まずは温泉周りの改造とかしたいから時間もかかるし、そんな暇もないだろう。
(大体、あんな手紙遺されたらこの森にいるのも怖いってーの)
いったいなんの儀式なのか、この国の王様の代替わりの時は問答無用で人間が来るらしいから、そのときは兎に角、私が意志を持つお湯の精霊だとばれないように、そしてなんとか、この場所にいた先代は亡くなりましたからもうその儀式は無駄です。と伝える方法を考えなければ……
(私は、貴女と同じ轍は踏まないわ)