——警察①
外部の何者かの侵入によって、患者一人を死亡させた事件をきっかけに警察の調査で過去にもみ消された医療ミスや脱税、地元議員への収賄容疑が発覚した病院の院長が、今日もマスゴミやネット住人からやり玉に上がっていた。
病院からは患者の転院が相次ぎ、勤めていた医者や看護婦も次々辞めていく。
顔にモザイクがかけられてインタビューに答える職員もいたが、誰もが院長のワンマン経営に辟易していた、亡くなった患者さんには悪いがこうなって良かったと口を揃えて証言したことで、この病院は二度と立ち直ることはないと言われている。
なんてことはない。
結果的に僕はいいことをしたんじゃないか。
ネット上では病院の監視カメラに映された侵入者らしき人物が出回っているものの、ガタイのいい不良っぽい男、鼻ピアス、左手のドクロのタトゥばかりが取り上げられている。
笑いを抑えていると、玄関のチャイムが鳴った。
母さんの足音がして、インターホンでの会話が途切れながら聞こえてくる。
「お帰りください! うちの子は何も知りません!!」
母さんの叫び声に、僕は警察が来たんだと直感した。
驚くことじゃない。住んでる町が違うだけで、ターゲットの二人の共通点は僕と同じクラスメートだ。これ以上ないほど分かりやすい。
それなら同じクラスメートに二人を恨んでいる者の心当たりがないか聞き込みするのは当然だ。
どんなに遅くても三人目のあとまでには来て当然。むしろ来なかったら警察が情報封鎖しているのかと心配するところだ。
インターホンではまだ母さんが警察を追い払うために金切り声を上げている。
それは何も僕を守ろうとしてくれてるだけじゃなく、あの院長のもみ消し工作によって、これまで信じていた警察に裏切られた不信感のほうが強いからだ。
もちろん母さんと同様、父さんも警察に対して強い不信感を抱いている。
このことも僕たち家族の強い連帯感の助けにもなっているんだ。
しばらくして母さんの声が途切れ、様子を伺っていたけど結局僕に何か言いにくる様子もなく、部屋の前に届けてくれた夕食のメモに、「今日警察が来たけれど追い返してやったこと」と、「あの病院が倒産するらしいけどいい気味だ」といったことが書かれてあった。
空になった食器を返す時に、「ネットで言われているように、僕をイジメていたやつらが本当に殺されたのか聞きたいからドア越しなら話してもいい」と書き、「あの病院が潰れるのは構わないけれど、治療を受けていた患者さんたちがかわいそうだ」とつけ加えておいた。
これで僕は院長を恨んではいるけれど、罪のない患者のことを心配できる善人という、人殺しなんてできるはずもない証拠をまた一つ積み上げたわけだ。
警察は次にいつ来るんだろう。
僕の人物評価を上げてくれる単純なバカならいいな。
あくまで僕のターゲットはあのイジメに直接加わっていたやつらだけで、それ以上は求めていないんだから。