——もう一つの報復①
この計画を始めるにあたって、人脈とネットの流れを誘導するために立てたスレサイトに、久しぶりに興味をひかれる書き込みがあった。
書かれていた内容は、僕が住んでいる町で昔起きた「郵便局立てこもり強盗殺人事件」についてで、書いた人は「名無しさん」ではなく、ある記号を使っていた。
それはあの総合病院の院長を自殺へ追いやったスレで「真実を書き込む時はこれを付けろ」と、注意書きをしていた記号であり、もちろんすぐに書き込む全員が真似をするばかりか、別の記号、自作のAAが氾濫することになったけど、信憑性の高い情報をくれる者の中に、ちゃんと使ってくれる人もいた。
何より、大勢が押し寄せて書き込みが集中し、酷い荒らしと別スレが次々と立てられていた当時ならともかく、すでに忘れ去られているスレの約束を律儀に守ってくれていることからも、この情報は事実ではないかと考えてもいいのではと思ったんだ。
その内容は、
「郵便局立てこもり強盗殺人事件で、たった一人亡くなった子供は当時発表された犯人の薬による錯乱状態による拳銃の無差別発砲が原因ではなく、説得に当たった警察が犯人を激怒させてしまったために起きた致命的なミスだった」とある。
「このことが隠蔽されたのは、説得にミスした警察官がキャリアのエリートだったため、上から圧力がかかり伏せざるを得なかった」だそうだ。
最も腹立たしいのは「殺された子供は同じ管轄の刑事の息子であったにも関わらず、ミスをした人物に何のお咎めもなかったばかりか、現在もエリート警視監という高い地位にいる」ということで、
「子供を殺された当の刑事はそれ以来、警察内部で肩身の狭い思いを強いられている」と締めくくられ、追伸でミスをした人物の実名と、亡くなった子供の名前が示されていた。
僕はこの子供の名前に見覚えがあった。
以前、備品倉庫の件でうちに来た刑事に証言した時に、名刺をもらったはずだ。
本当は最初うちに来た時に置いて帰ったのかもしれないけれど、両親は破いて捨てただろう。
引き出しを探すと……あった。間違いなくあの中年刑事と同じ名字だ。
これが事実なら許し難い行為であり、イジメ以上に悪質な組織ぐるみの犯罪だ。
しかもそれが本来、犯罪を取り締まる側の警察によるものと言うのが救い難い。
とは言え、すぐに話を信用することはできない。今まで僕自身がその目的で使ってきたからこそ、逆に釣られる訳にはいかない。
そもそもエリート警視監を失脚させるための誘導かも知れないんだ。
だいたい、権力を持ったやつが役得ならぬ悪得を手にしたがるのは、世界中どこに行っても変わらない構図だし、そういうやつらの欲望には際限がないことも分かっている。
だから金を欲しがるのも、傲慢に振る舞うのも構わない。むしろ人としての器の小ささが笑える。
僕が言うのは矛盾しているけれど、人の命を軽んじるのだけは許せないんだ。