——証拠②
どこの回収業者に聞き込みへ行っても異口同音に「以前に話した以上のことは何も知らない」「あやしいものは無かった」と証言した。
そもそも不審なものがあった場合、業者は回収せずその場に残し、持って行かないのが基本だ。
でなければ環境に配慮した分別回収も、ゴミを捨てる側の意識の高まりもあったものではない。
二人の刑事はそれでも諦めず聞き込みを続け、キャリア組からは無駄な捜査だと笑われながらも、業者の社員一人ひとりと顔見知りになるほど処理施設へと通い詰めた。
「これだけ捜査して何も手掛かりがないんじゃ、もうキャリア組の言う通り事故なんじゃないでしょうか」
若い刑事のつぶやきに、中年刑事は舌打ちして吸っていた煙草を灰皿へ押し付ける。
「強引だが、決め打ちするしかないな。
ちょっと考えていることがあるんだ。もう一回、回収業者あたるぞ」
立ち上がって出て行く刑事の後を追って若い刑事が出て行くと、部署に残り、事故の報告書をまとめていた署員たちは冷ややかな視線を向けて笑い合った。
「刑事さんもよくやるねえ。何度も言ってるけど、気づいたことがあったらとっくに話してますって」
すっかり馴染みになった、ある回収業者の社長は、いつも通り笑って肩をすくめる。
「分かってるさ。挨拶みたいなもんだ。ところで、今晩飲みに行かないか?」
「はははっ。いいんですか? 聞き込みじゃなくお誘いなんて。
誰かに勘ぐられたりするんじゃありませんか」
「別にあんたは犯人じゃないし、容疑者でもない。
飲ませていい気分にさせて何か思い出させようと言うのが建前で、ちょっといい小料理屋を見つけたんだが、あいにく給料日前で金が無くてな。あんたを連れて行けば経費で落ちるんだ」
「ちょっ、先輩……」
後ろで若い刑事が慌てたが、諦めたかのように首を振る。
「なんてセコイ職権乱用ですか。って、建前が逆じゃないですか」
「いいんだよ、どっちでも。行かないのか?」
「分かりました行きますよ。お前ら今晩空いてるか?」
社長が呼びかけると、数人がワクワクしながらやって来る。
「刑事さん、ゴチになります!」
「いつも太っ腹スね。嬉しいっス」
「今日は俺じゃねえ! 礼なら社長に言え、社長に」
「社長、ゴチになります!」
「いつも太っ腹スね。嬉しいっス」
「お前らそんなことを言ってると、給料からさっ引くぞ!」
「ところで、不審なことと言うより、以前に言っていたあの日付の前後で『嬉しかったこと』はないか?」
社長と社員のやり取りに笑いながら、これまで回ってきた回収業者と同じように中年の刑事は尋ねる。
すると一人の社員が「あっ!」と手を打った。
「そうそう! あやしいものは無かったっスけど、ある製材所にオレたちをいたわる手紙が付いていたんスよ。
これだけエコが騒がれてっスけど、まだまだゴミを出すだけ出して回収するオレたちのことなんて考えない人間は多いっスがね」
社員は事務所の机から一枚の紙を持って来る。
「いや、本当はそのまま捨てなくちゃいけないんスが、つい嬉しくて、剥がして持って帰ってしまったんス」
社長の目を気にしながらおずおずと差し出されたその紙を見て、刑事は目の色を変えた。
「せ、先輩。これって!」
「ああ、間違いない。すまないが社長、今晩はお前さんたちだけでやってくれ。
これちょっと借りて行くぞ」
「え? ちょっと!」
そこには見覚えのある文字で“重い材質の廃材ですので持ち上げる際は腰を痛めないようご注意ください”と、相手を気づかう内容が書かれていた。