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——証拠①


 高校生の失踪事件は一時、先の連続殺人事件との関連がささやかれたが一ヶ月たっても消息がつかめず、これまでの事件では犯行後すぐに遺体が発見されていたものと異なることと、父親の自殺からネットでの個人情報流出の件もあり、通常の家出として扱われた。


 それから半年がたったある日。


 廃棄物処理場から警察へ、施設の改修工事中に焼却炉から人骨が発見されたと通報があった。

 すぐさま駆けつけた警察によって回収されたものは、炉内で幾度となく焼かれていたため損傷が激しかったが、鑑識によって若い男性であることが判明した。

 警察は歯形などから身元の確認を急ぐとともに、事件と事故の両方から捜査を始めた。



「先輩はこれも例の連続殺人事件に関係すると思いますか?」

 若い刑事はコンビを組んでいる中年の刑事に尋ねる。


「まだ何とも言えんが、可能性はあるんじゃないか」

「だったら身元はあの少年のリストに書かれた最後の一人だと?」


「推測しか言えないが、これまでの聞き込みから最後の少年がイジメの主犯格ということは判明している。

 もしお前さんが犯人だったとして、他の全員を殺しておいて、一番恨みがある主犯格だけ放っておくか?」

「無いですね。むしろ真っ先に狙うんじゃないですか」


「そういうことだ。だがこれだと余計に問題なんだ」

「何がです?」


「考えても見ろ。初期の殺しは体育教師の犯罪、後半の殺しは体育教師を真似たイジメをしていた少年の犯罪ということになっている。

 ここで行方不明の少年まで殺されたとあっては、我々は第三の犯人を見つけなければならないばかりか、初期と模倣犯の事件まで遡って事実関係を洗い直さなければならなくなる。

 俺たちはこの事件でキャリア組と組まされているんだ。そんな失態につながるようなこと、あいつらが認めると思うか? うやむやにされて、適当な落とし所で済まされたんじゃあ、俺には納得できねえからな」

「僕は直接キャリア組の仕事を見た訳ではないので何とも言えませんが、要するに警察の沽券に関わる結果は隠そうとするってことですね」


「そういうことだ。もし真犯人がそこまで考えて行動していたのだとすれば相当大した奴だな。

 警察組織として不可侵の部分を逆手に取った犯罪だ。追い詰める側が自分たちの保身のために、追い詰められない状況を作り出してやがる」

「で、ですが、まだ本当に殺人と決まった訳じゃなく、事故の線も捨て切れない訳で……」


 若い刑事の言葉に答えず、ポケットからタバコの箱を取り出した刑事は、マッチをすって火をつける。


「それにしても、えげつないよな……」


 深く吸い込んだ煙を曇った空へと漂わせた。


 今にも泣き出しそうな空は、吐き出された煙と一体となり、やがて地上の塵媒を含んだ雨として因果応報の汚れを再び地上へたたき落として来るのだろう。


「事故ならいいさ。だが、鑑識が遺体周辺のゴミからわずかな化学物質を割り出している。

 それがどうやら可燃性の接着剤らしい。

 事件だとしても、クギや針金を刺して体を固定する猟奇的な犯罪ではないという意見もキャリア組から出ているが、もし事件の可能性を払拭させるためわざと接着剤を使ったのだとしたら、ガイシャは生きたまま固定されて焼却炉に落とされたと考えられる。

 そんなことが出来るやつは、とてもまともな精神の持ち主じゃない」


 若い刑事は、被害者の置かれた状況を想像して黙り込んだ。


「一通りの聞き込みはキャリア組の奴らが終えている。俺らは奴らの想像外の所を捜査していくしかない。

 DNA鑑定だが、仮定としてイジメの少年が行方不明となった日にちを母親に聞き込みして、同時にDNAの比較サンプルとなるものを入手しとけ。

 その日付を元に回収業者をもう一度シラミ潰しに当たるんだ。必ず見落としているものがあるはずだ」

「分かりました。さっそく手配します」


 駆け出していく若い刑事を眺めながら、中年の刑事はポケットから一枚の写真を取り出す。


「どうなんだ。俺は正しいことをしているのか? それとも、また不幸になる人間を増やそうとしているだけなのか?」


 だが、写真の中の幼い息子は何も語らずに、ただ幸せそうな笑顔を浮かべていた。


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