——後悔①
ヤツを廃材として始末してから二日が過ぎた。
昨日の段階でヤツが見つからなかったのは、すでに事が終わったことを意味している。
これで僕が最初に計画したすべての復讐は終った。
計画を思案している時は、全員始末した後には最高の喜びが待っているのだろうと考えていたけれど、この感覚は何だろう。
小説やドラマなんかでよくある、復讐後の虚しさなんかじゃ決してない。
例えるなら、どうしても欲しかったものをやっと手に入れた途端、まったく興味が失せたかのようだ。
あいつらがいなくなったことそのものは満足している。何よりこうなることを望んだのは僕自身だし、実行したのも僕だ。
だからこうあるべきだったんだと思っても、どうしてもモヤモヤした気分がぬぐえない僕は、気持ちの整理をしたくて美容クリニックの先生のところへ向かった。
待合室に入ると、いつものような明るさがなく、しんみりしている。
不思議に思いながら待ち、僕が呼ばれて診察室へと入ると、顔は笑っているけれど目がひどく落ち込んでいる先生がいた。
「先生、どうかされたんでしょうか?」
「いや、何でもない。それより腕の傷はどうしたのかな。まだ、イジメは続いているのかい?」
先生はヤツにやられた時の傷を見て尋ねる。
「こんなの大したことありません。以前よりずっとイジメられなくなりましたから。
そのうち完全になくなると思います」
「そうか。それなら良かった」
ホッとしてくれてはいるけれど、やはり先生の様子は明らかにおかしい。
「あの、僕のことより先生は大丈夫ですか。何も出来ないかもしれませんけど、僕にできることがあれば教えて下さい。
先生は、その、僕の恩人なんです」
これまでの僕は誰かに対してなんとかしたいなんて積極的なことは言えなかった。
本当に感謝している先生にさえ、困った顔をしているからといって力になりたいと心で思っても、実際に口に出せない人間だった。
それが言えるようになれたのは、他でもないこの先生のおかげだろう。
何より、復讐を終えて得体の知れない気持ちを抱えていた僕は、誰か人の役に立つことに何か答えがあるような気がしたんだ。
「ありがとう。本当に優しくて思いやりのある人になってくれたね。医者である私のほうが慰められるなんて。
君が初めて私のクリニックに来てくれた時は、大変な思いをしていて、人のことを思いやる余裕なんてなかったのに。
嬉しいよ。君が変わってくれて。そして、私のことをそんなふうに思っていてくれて」
違う。あんな残酷な復讐なんてものが出来る僕に、優しさや思いやりなんてある訳がない。
「実は、私の遠縁にあたる子が行方不明になってね」
先生は時計をちらりと見て話し始めた。
まだ待合室には順番待ちの患者が何人かいる。そんなにゆっくり話を聞ける訳じゃないけど、先生が話してくれることの嬉しさと、行方不明の言葉にヤツを思い出し、微妙な顔でうなずいて話をうながした。
「私の家系は医者が多くてね。その子の親も総合病院の院長をしていたのだけど、自殺してしまってね。
彼の父親は強引に儲けるのが有名で、他の親戚も随分と辟易していたため、あんなことになってからは誰もその子と母親を引き受けたがらなかった。
けれど私には放っておくことは出来なかったんだ」
顔には出さないようにしたけれど、背中からどっと冷や汗が吹き出し、心臓が早鐘のように鳴り響くのを感じた。
間違いない。先生はヤツのことを話しているんだ。