——家族
やたらパトカーのサイレンがうるさかった明け方から二度寝して、目が覚めたのは十時を過ぎてからだ。
さっそくネットでニュースを見ると、僕の住んでる町で高校生が殺される事件があった。
死んだやつはよほど運が悪かったんだろうな。まったく、物騒な世の中だ。
そんなことより次だ。今はこの事件のために町じゅう警察が警戒している。ということは逆にこの町以外の警戒は薄いということ。管轄外には関知しない、させないというのが警察を含めた役所組織のいいところだ。
だから、最初から二人目を誰にするかは決まっている。
ドアの外でコトンと音がした。
「お昼、置いておくから」遠慮がちな母さんの声がして、階段を降りて行く。
お盆に乗せられサランラップがかけられた食器を部屋に運び入れて、まだ温かいご飯とみそ汁、ハムエッグを残さず食べてドアの外に食器を返す時にメモを一枚乗せておく。
“母さん、いつもありがとう。今はまだ人に会うのが怖くて外に出られないけど、ぜったい克服するから。わがままして、本当にごめんなさい”
引きこもりの真似を始めてから、僕はこのメモで両親に感謝と外に出る努力をしていることをアピールしてきたのには理由がある。
こんな息子を持った両親を絶望させないことと、僕が本当に外に出られないという証人になってもらうため。
警察だってバカじゃない。もし今後、僕が起こす行動の中で何らかのミスをしてしまい警察が僕に違和感や疑いを持ったとすれば、物的証拠がなくとも捜査されてそこからボロが出るだろう。
その糸口はほんの些細な家族の僕への不審だったり、ひょっとしてなんて思う言葉のはしからこぼれ落ちるものなんだ。絆さえ保っておけば、心情的に味方してくれるだろうし、メモそのものが外へ出ていない証拠にもなる。
それにこのメモは、僕が外で目撃されても、外に出られる訓練をしていたと言う理屈を通じさせるものなんだ。
夕食の時には、母さんから“私もお父さんもあなたを信じているから頑張って”という、メモが乗っていた。
ああ、順調だ。明日の朝は早い。これ食べたら寝るか。