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——七人目

 翌日、僕は学校に行く振りをして、電車を乗り継ぎ山へ向かった。

 学校の制服は二つ目に乗り継いだ駅のトイレで着替えコインロッカーに押し込み、今は汚れた作業着を着ている。

 この服にした途端、僕をチラ見する大人がいなくなったのも、わざわざ遠出する意味があったというものだ。


 終点より一つ手前の駅で降りた僕は、寂れた商店が並ぶ道を通って山に入った。

 手には厚手の作業用手袋、腕には作業中の腕章を巻いているので、知らない誰かと出会っても「ご苦労様です」と言っておけば勝手に関係者だと思ってくれる。

 この方法で工場地域から材料を集めていたんだ。


 今回の変装には派手な茶髪に耳のピアス、左アゴにはカミソリ負けしたかのようにバンソコウを貼ってあり、これで僕は高校中退のDQNに見られ、目撃者の特徴証言も一致させられる。



 山での探し物はあっさり見つかった。時期が良かったのか運が良かったのか、あるいは僕の死神が導いてくれたのかは分からない。


 明日は土曜日。学校へ行くと必ず帰りにあいつらが待ち伏せしているだろう。

 そして土、日曜にかけて、飲み食いしながら僕をどれだけ苦しめられるかをじっくり競うんだ。

 僕はただあいつらが泥酔するのを待てばいい。それまで我慢し続ければ終る。問題はその後だ。


 その前にもう一か所寄っておかないと。



 翌日の放課後。

 下校する道で出会わなかったことに少し拍子抜けしていると、わざわざ次の駅からあいつらが乗り込んで来た。

 反対車両から互いに携帯を持ってニヤニヤしながらもう一人のやつがやって来たと言うことは、監視役を一人残して僕が乗る電車を見張っていたんだろう。


「今日も俺らと遊ぼうぜ」


 そう言いながら取り囲み、自分たちの体を壁にして、乗客から見えないよう僕の胸ぐらをつかんで首を絞める。

 観念したようにうんうん頷くと、やつらは僕を囲んだまま下らない会話を始める。乗客には頭の悪い学生がバカな話しで盛り上がっているとしか見えないだろう。

 本当に僕を隠すためなのか、本気でバカなのか、訳が分からないやつらだ。


 女の部屋に連れ込まれると、いきなりは首輪をはめられた。今日は逃げないように付けておくらしい。

 ギリギリ呼吸ができる程度まで締め付けられ、部屋中を這ったまま引きずり回されて二度失神した。

 そのたびに水を張った浴槽に頭を突っ込まれ、意識を取り戻すと今度は死ぬ直前まで水の中に頭を押さえこまれた。


 ここに三日、いや、二日いれば間違いなく殺される。

 何の仕込みも出来ないまま本当に殺されると感じた時、僕を救ったのは女の「夕食が出来た」という声だった。


 やつらは部屋が濡れるのを嫌い浴室に僕を残して女のいる部屋に向かった。

 足音が遠ざかるのを確認して、ガンガン痛む頭をだましながら、浴槽内の髪の毛を全て拾い上げてポケットに押し込む。

 僕がこの部屋にいた形跡は絶対に残してはいけないんだ。

 僕の場合カツラなので、DNA鑑定されればDNAが検出できないという証拠が残ってしまう。

 この手間だけは絶対に惜しんではいけないんだ。


 しばらくしてやつらの一人がボロボロの雑巾のような布を手にして戻って来た。

 嫌な臭いが染み付いた雑巾で体を拭いてから、床に水滴が残らないようにケツを前にして後ろ向きに進み、床を拭きながら来いと言う。

 これは好都合だ。わざわざ証拠を拾い集めさせてくれるなんて。

 僕が念入りに床を掃除してやつらの部屋へ入ると、まだ肌寒いこともあり、鍋をつつきながらすでにビールを何本も空けていて、度数の強いウイスキーも置いてある。


 そこからはまた、先日と同じようなイジメが始まった。


 前もそうだったけど、今日も僕には一切飲み食いをさせない。まして酒なんて一滴も呑ませたりしない。

 理由は僕を飢えさせたいことと、呑まさないのは酒が麻酔の役割となって痛みがやわらぐのを防ぐため。


 そう。この状況だからこそ今回の計画が活きるんだ。


 夜中二時まで続いた虐待によって体はボロボロになったけど、まだ生きている。生きていられたんだ。

 満足に立ち上がることさえ出来ないけど、気力だけは残っている。今やらないと、明日は必ず殺される。


 玄関に放り出されたままのカバンから山で採って来たキノコと山菜を取り出して、僕を虐待するのと酒を呑むほうで忙しくて食べかけだった鍋に刻んで入れて、ひと煮立ちさせた。

 さらに小さなビンに入った粉をウイスキーの中に入れる。


 それから床に這いつくばって髪の毛を拾い集め、少しでも血がついただろう場所も念入りに拭き取った。


 僕に付けられていた首輪はよく拭いて、泥酔して眠っている女に付けておく。


 こうして僕はまたこの部屋から逃げられたけど、もう電車は動いていないので朝までどこかで休まなければ体が持たない。

 着替えは昨日、ここから一番近いデパートのコインロッカーに隠しておいた。

 あの近くに公園があったはずだ。開店まで待って着替えて帰ろう。


 取りあえず次に目を覚ました時はあの世じゃなければいい。

 あいつらと同時に逝って顔を合わせるなんてのは、最悪だからな。


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