——1人目
雪が降り、真冬の厳しさを増した午後9時。大通りから外れたこの道は、普段よりさらに人通りが少なく、黒のブルゾンのフードをかぶって、花粉症用の大きなマスクをしていても僕が怪しまれることはない。
塾帰りのあいつがこの時間にこの道を通ることは調べてある。
まあ調べるまでもなく、あいつはブログとTwitterで自分の行動をいちいち教えてくれたからな。
細い路地に隠れていると、バカづら下げたあいつが歩いてくる。しょせん他人をジョークと言ってイジメるやつなんて、自分が被害に遭うなんて想像すらできない貧相な脳しか持っていないんだ。
路地の横を通りすぎる瞬間、僕はあいつの額めがけてビンの中身をぶちまけてやった。
「ぶわっ! 誰だ! なにしやがっ……熱ち、熱ち! 熱い!」
怒鳴りかけた直後、もだえながら必死に顔面を両手でこすりながら叫ぶ。
そりゃ熱いだろうさ。ぶっかけたのは塩酸なんだ。すぐ水で洗い流しでもすれば顔面に一生残るくらいの火傷ですんだのに、バカだからあわててこすって目の中に入っただろう。
眼球が溶けたら、もう二度と視力は戻らない。それはつまり、かけた相手の顔をあとから証言できないってことなんだ。
かけられた瞬間に液体がなんなのか冷静に判断して対処していれば、酷いことにならずにすんだのに。お前はいつも僕にわけの分からない液体をぶっかけて、そう言ってたじゃないか。
そのせいで僕は左耳が聞こえなくなったし、髪の毛も生えてこなくなったんだからな。
ヨロヨロ歩いて逃げようとするやつに、用意していたアルミパイプでむこうずねをフルスイングしてやったらバキンと鈍い音がして、右足の膝から下があり得ない方向に曲がりアスファルトと融けた雪が混ざった地面にぶっ倒れ、意味不明の叫びと悲鳴をあげながら虫けらのように転げまわる。
運よく誰かが通りかかったら、明日の朝冷たくなって発見されなくてすむかもしれない。
明日ネットのニュースで確認することにしよう。
もだえるやつを放ったらかして僕は家に帰った。