——警察と先生①
「先輩、昨日の少年の証言は間違いないようです。何人かの生徒が窓から忍び込んでいるところを目撃しています。
それに放課後もイジメをしていた者たちが、彼を捕まえ損ねた腹いせに別の生徒をイジメていたとの証言も得ました」
「ふん。同じクラスであれだけの事件があったというのに、まったく懲りない連中だな。
それで。イジメをしていた連中はあの少年のリストに載っていた者だったのか」
刑事は胸ポケットに押し込んであるタバコを一本抜き出して、愛用の鈴を付けた黒猫の絵柄が描かれている箱のマッチで火を付ける。
「はい。あります。それにしても先輩はあの少年にこだわりますね」
「初めて会いに行った時に言っただろう。どうも引っかかるってな。勘だよ勘」
「そりゃあ先輩の勘は信じてますけど、状況から見て彼の仕業とは考えづらいです」
「だから勘だって言ってるだろう。
もし自分の仕掛けた罠で人が死んだと分かったら、あんなに普通でいられるか?」
「無理ですね。どれだけ憎い相手でも、人を殺せば何らかの動揺は隠せません。まして、我々警察相手ならなおさらです。
彼と話していた時の挙動は目線も振れず、動作も落ち着いていました。
まあ、知り合いが突然事故に遭って驚いていた程度の反応でしたね」
「だから犯人じゃない。俺だってそう思う。
しかし、一連の高校生殺人事件がお偉方の言う通り自殺した体育教師と模倣犯じゃなく、一人の人物によって行われているとしたらどうする?」
刑事は深く吸い込んだ煙を空へ向かって吐き出す。
「まさか先輩はそれがあの少年だと?」
「そこまでは思っていない。何も関係ないかも知れないし、関係あるかも知れない。
いずれにしろ、この事件は謎に対する答えが簡単に出過ぎて面白くないんだ」
「面白くないって、先輩。我々は探偵じゃないんですから」
「そう言うな。犯罪捜査の九割は地道な努力と諦めない粘り、後の一割は経験と勘による閃きが俺の信条だ。
あの少年の事件や裁判をもみ消して、虚偽の判決を出させた現場では使いもんにならないキャリア組とは違うんだよ。
彼の言っていた医者にも聴き込みするぞ」
「先輩はあっちのチームとソリが合いませんからね。なんて、自分もそうなんですけど。
先輩ならそう言うと思ってクリニックの場所は調べてあります」
若い刑事は手帳を取り出して確認する。
「よし。お前にしては上出来だ。
ただ単に頭の中に「正解が用意されてる問題の答え」を詰め込んだだけのクソキャリアとは違うところを見せてくれよ」
タバコをもみ消す刑事に頭を小突かれながら、二人は席を立った。