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——ハプニング①

 登校を始めた初日から再開したイジメは、毎日のように続いている。


 だけど、あいつらがイジメをやればやるほど僕が「無力」であるイメージが定着するんだ。


 これは直接イジメをするやつらより、見て見ぬ振りをしているクラスのやつらに対するアピールだ。


「やっぱりコイツは情けない」

「何もできないヤツ」

「無能」


 僕イコールそうとしか考えられない思考停止状態にしておけば、教師同様、僕と「何か」を関連づける思考回路が働かなくなるんだから。


 だけど以前ほどエスカレートしたものではなく、せいぜい殴る蹴る、カバンの中にゴミが詰められる。教科書やノートが燃やされる、靴の中に牛乳がダボダボに入れられている。体操服がズタズタにされている程度で、以前はこのどれか一つでさえ目の前がまっ黒になって絶望を感じたものだ。

 ただし殴る蹴る以外は、僕の目の届かないところでこっそり行われている。


 これはただ単に学校側の指導でおおっぴらにしなくなったのではなく、イジメをするやつらのほうが「僕」に対し手を出しづらい雰囲気を感じているようだ。


 それはそうだろう。あくまでイジメられっこを演じているけれど、本気で情けなく謝りながら無抵抗で床にひれ伏しているのではなく、イジメを甘んじながらわざと情けない振りをして、時期を待っている僕とでは中身が違うんだから。


 そんなことより僕は、イジメを受けたあとの授業を時々サボることにしていた。



 体育館倉庫と旧校舎に挟まれた所に、生徒用の机や椅子、教師用の事務机などが放り込まれた備品倉庫がある。


 休み時間にはバカどもが裏に隠れてタバコを吸ったり、位置的に旧校舎を使うクラブから見えたりする、わりと人目につく場所だけれけど授業中は人通りも少なく盲点になるんだ。


 もちろん施錠してあって入り口からは簡単に入ることはできない。

 だけど正面から向かって左の壁に窓があり、その下にある隙間に手を突っ込んでつっかえ棒のようになっている板を外すと窓が開いて中へ入ることができる。


 そこで僕は備品の椅子に細工を施していた。

 椅子と言っても生徒用のパイプ椅子ではなく、教師用の事務椅子だ。

 引きこもる前に、この間行った塗料工場周辺の地域から捨ててあった金属片や錆びたパイプを持ち帰り、少しずつ組み立てていたものを椅子にセットするため、一人になる時間が必要だった。

 それにはイジメを受けたあとと言うのが一番自然な流れだ。


 もちろん授業に出なければ出席に響き、教科担当の教師も問題にするのが普通だけど、僕の場合はホームルームの話題にさえ上がらない。


 そう。クラスメートはもちろんのこと、担任教師でさえ問題にしないんだ。

 この学校がとことん腐っていて、本当によかったとつくづく思う。



 椅子の細工も終って、これを使う日や持ち出す時間や日も計画どおりに進んでいたある日。

 事件が起きたのを知ったのは、その日の夜のネットニュース速報でのことだ。


『連続高校生殺害事件、四人目の被害者か?』の見出しに一番ギョッとしたのは僕だろう。


 確かに計画は進行中だけど、まだ僕は行動していない。何かの間違いか、無関係の事件を混同しているかのどちらかだ。

 そう思いながら記事を読む僕の顔から、血の気が引いていくのが感じられた。

 記事には場所がどこか分からないようカモフラージュしてあるけれど、間違いなく僕の通う学校だ。


 それも場所はあの備品倉庫。

 二年の先輩が、同じ学校の友人数名で倉庫内に入り込んでいるうちに事故が起きた「らしい」。

 駆けつけた警察は事件と事故の両方から捜査しているとのこと。



 間違いない。

 先輩はあの椅子に座ったんだ。


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