表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/39

——登校①

 ニュースは昨日の事件を大きく取り上げていた。


 大手マスゴミは慎重な扱いをしているが、スポーツ系やネットでは『高校生連続殺人の犠牲者はついに三人目』などと、院長や教師をはぶいた見出しが踊っている。

 頭数にさえ入れてもらえないなんて、まったくかわいそうなことだ。


 大量の証拠が現場に残されていたことと、「放置ではない手口」に、真犯人の教師とは別の誰かであろうと、何かの専門家がテレビで偉そうにぶってやがった。


 放置ではないというのは、一人目と二人目の殺害方法がどちらも完全に死んだのを見届けずに現場から立ち去っているという点と、今回は完全に殺してから逃走しているとの違いで、前の二人はもしかすると手遅れにならずに済んだかもしれず、「自殺した教師に本当に殺意があったかどうか改めて問い直さなくてはいけない」だそうだ。


 問い直す必要なんてない。殺意なんて無かったに決まってるじゃないか。

 ただ、僕を助ける気もなかっただろうけれど。


 そんなマスゴミが解説に呼ぶ使いものにならない専門家の中から、犯人は複数かもしれないとする意見が出され物議がかもし出されたのは、いい感じに捜査を撹乱してくれて僕にとって予想外のラッキーな出来事だった。


 その後、予想通り警察は模倣犯の線で捜査を始めたけど、現場の証拠以外何も手がかりがなく、あまり進展はないようだ。




 それから二週間後、僕はクリニックの先生の勧めもあって、少しずつ学校へ出ることにした。



 無理することはない。気分が悪くなったらすぐに帰ってくればいいという両親のありがたい気づかいを受けながら、僕は学校へ向かった。


 同じ制服のやつらが同じ方向に向かってゾロゾロ歩く姿を久しぶりに見た僕は、これまで考えもしなかった異様さを感じた。


 大した目的もなく、ただ通うのが当たり前だから、通っておかないとマズイから、ほかにヒマを潰すあてもないからといった中身の抜け切った連中が、世間という目に見えない圧力の命令に従って無思考に動かされているように見えたんだ。


 もちろん中には楽しそうに笑っているやつもいるが、そのどれもが取って付けたヘタな芝居をしているかのようだ。


 僕もこれまであんな風に暮らしていたんだろうか。

 だったら何て無意味な生き方だったんだろう。




 下駄箱には当然僕の上履きはない。

 登校してそうそう焼却炉に捨てられるのは、せっかく新しいのを買ってくれた親に申し訳ないので、靴のまま教室に入ることにする。

 裸足でも無視したのだから問題ないはずだ。


 教室に入ると、誰もが怪訝そうに僕を見る。

 だけど以前の汚物を見るような目じゃなく、誰だか思い出せずにとまどっている顔だ。


 これでも六十五キロまで落とした体重を、九十キロとまではいかないが、わざと七十五キロまで増やしたんだ。


 まったく。落とすのは相当苦労したというのに、増やすのはあっと言う間だった。

 どこかで一キロ落とすには一万円かかるけど、一キロ増やすには百円あれば十分と聞いたことがあるけど、本当にその通りだ。


 でもただ増やした訳じゃない。どうせ登校すれば前のように殴る蹴るされるに決まっている。

 わざと脂肪をつけてクッションを作るのはレスラーもやっていることだ。



 隅に押しやられた僕の机だった席に座ると、ようやく思い出したらしく、みんな目を背ける。


 教室を見渡すと、この間のあいつのだろう机に花が飾られている。よく僕の机にも置かれたけど、これは現実だ。

 遊びで置いたやつらと、それを見て見ぬふりをしていたクラスの連中は、僕がここに現れてよけいに気まずいだろうな。


 そんな事を考えていると、僕の前に制服の黒い壁ができたと同時に顔と腹を殴られ、太ももに蹴りを入れられた。


「でけえゴミが落ちてるぜ」

「臭っせ、臭っせえ」


 ある意味、信じがたい行動だ。


 このクラスでイジメをしていたやつが三人殺されているというのに、久しぶりに登校した僕を脊椎反射なみにイジメようだなんて。


 こいつらの顔を見ながら感心していると、以前どおり「その目は何だ」と頬を引っ張り上げ、もう一方の手で何度もビンタを食らわされた。



 以前の僕ならこんなことで「やめてください」なんて謝っていた。こいつらはそんな僕を面白がってさらにイジメをエスカレートさせたんだ。


 思い出すと無性に腹が立ってくる。


 こいつらにじゃない。

 そんな情けなかった僕自身にだ。

 僕はこんな空っぽのバカを怖がっていただなんて、本当に情けない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ