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——葛藤


 長いだろうと考えていた一ヶ月は、僕にとって本当に長いものとなった。


 休息期間に入ってすぐ、両親の進めからレーザーによるタトゥーを消す治療を始めた。

 本来、保険のきかないタトゥー消去治療だけれど、僕の事情を知った美容クリニックの院長先生が儲けを度外視して、三割負担で治療してくれることになったんだ。


 通常なら五センチ四方で約十万円かかる費用を三万円にしてくれるなんて、ネットで調べてみたけど、この値段はあり得ない。

 どうしてこんなことをしてくれるのか尋ねると、「世の中はお金だけじゃない。本当に人の世を動かしているのは人の心、人の善意だ」と言う。


 そんなはずは無い。

 人間は誰しも独善的で、自分さえ良けれはよくて、自分にとって都合のいい者だけを周りにはべらせておけば満足する。そういう生き物のはずだ。

 そして現実社会でそれが出来ないやつは、一人パソコンの前で顔の見えない相手に対し、好き勝手な罵詈雑言をばら撒いて自己満足にひたっている無知、無能なやつでしかない。

 善意なんてあり得ない。

 そんなものがあるなら、僕はこんな醜い姿になんてならなかったし、復讐なんてことを考えなくて良かったはずだ。


 こんな医者の言うことなんて真に受けてはいけない。だけどこのクリニックは他と料金が桁違いに違う。

 治療が終わるまでガマンしなければ、また両親に経済的負担をかけてしまうんだ。




 この一ヶ月で人目に触れる個所のタトゥーはほとんど消えた。今まで外へ出る時に使っていたドーランとパウダーを使わなくても気づかれないくらいだ。

 ネットで調べてみると、先生のタトゥーを消す技術は日本でもトップクラスのすごい人だった。


 そんな忙しいはずの先生は、僕が行くたびに、

「人間は悪いやつばかりじゃない」

「人を恨んじゃいけない」

「これほど辛い経験をした君だから、他人の辛さや苦しみが分かるはずだ」

 と、繰り返し話してくれた。


 分かってる。先生の言うことは正しいし、口だけでないのも僕にしてくれていることで明らかだ。


 一ヶ月前に四人目を始末した時に考えていた使命感なんて、高揚した気分からくる薄っぺらな似非の正義感だったなんてことは、僕自身、心のどこかで感じていた。


 だけど、ここで止めたら何のために半年の時間をかけて計画し、準備した上ですでに四人の命を奪ったかの意味が無くなる。


「人間は悪いやつばかりじゃない」から最初に決めたターゲット以外は被害を出さない。

「人を恨んじゃいけない」なら、人じゃないやつだけを恨もう。

「他人の辛さや苦しみが分かる」から、これからもっと「人」には優しく接しよう。


 だから復讐はこのまま続ける。


 僕にはもう、後戻りはできない。この道しか残されていないんだ。


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