ひび割れたコップと注がれる愛
ユウくんとの出会いは三年前だった。
「俺、お前のこと大好きだから」
二年生の夏、ユウくんは私を屋上に呼び出してそう言った。
しがない、いやそれよりも醜い私を、愛してくれると言った。
私はそれが嬉しくて幸せで、ユウくんに抱きついた。
「私も大好きだから」
それから私の幸福は始まる。
ユウくんと行った遊園地、映画館、水族館、図書館。
どこでの思い出も、鮮明に、そして克明に思い出すことができる。
ユウくんはまるで、高校生になってからのいじめでひび割れた私のコップを継ぎ接ぎして、元のコップよりも美しく仕上げてくれる接着剤だった。
その日までは。
三年生の夏、ユウくんは私を屋上に呼び出した。
それも記念日に。
思い出の場所に、思い出の日に呼ばれて、何を言いたいのだろうと気分は高揚の度を超えて期待は一入だった。
「なーに?」
私はわざわざ腕を背に隠しながら言った。
「お前、本気だったんだな」
ぞろぞろと、階段の裏から無数のいじめっ子が出てきた。
私の頭は真っ白で。
彼らの瞳は真っ黒だった。
「誰がお前みたいな気持ち悪いやつと好きで付き合うかっての」
ユウくんはその日、初めて私をお前と呼んだ。
優くんの目も、真っ黒だった。
「じゃあな」
私はユウくんに力負けして、柵を背にして落ちた。
いや、落とされた。
結局、ユウくんだっていじめっ子の一人に過ぎなかった。
二年間の付き合いは、全部嘘だった。
私のコップは、またひび割れた。
いや、完全に粉砕した。
なぜか私は一命を取り留めた。
ユウくんは私を見舞いに来た。
「ごめん、やれって言われて断れなかった。心亜を傷つけるつもりはなかったんだ」
そう言って、私の腕を取った。
私は信じなかった。
冗談でも、愛している人を突き落とすわけがない。
そう思って疑わなかった。
だから、目の前には死体が転がっている。
私の腕は、かろうじてユウくんの首をひねるだけの力を残していた。
私を傷つけるユウくんはいらない。
代わりに、私を傷つけないユウくんが欲しかっただけ。
私は何もしていないはず。
だって、私の中の指示役に従っただけだもん。




