La Campanella
また、鐘の音は今日も鳴る。
ラ・カンパネルラ。それは悲しき調べ。
ラ・カンパネルラ。それは可憐な調べ。
彼女は見えない何かを掴むように、窓の外へと手を伸ばす。あるのは先の見えない定めとそれに打ち震えるちいさな心だけ。そんな彼女を嘲笑うかの様に、白い鳥は優雅に目の前を通り過ぎてゆく。
今、鐘の音が凛と鳴る。
ラ・カンパネルラ。それは冷たく響く。
ラ・カンパネルラ。それは優しく響く。
人々は明日へと歩みを進め、思い出は過去に居座り続ける。幾ら思い出に未練があろうとも、過去に縋って生きてゆくなど到底不可能、妄執に囚われていれば、何れ其れは己に牙を向くだろう。
ほら、鐘の音は幾度も鳴る。
ラ・カンパネルラ。それは切迫した音の滝。
ラ・カンパネルラ。それは優雅な音の流れ。
川は止めど無く、海は緩やかに空の青を映す。無い筈の色は光のスペクトルの中で静かにその実体を得る。故に色は未熟、故に色は純粋。それは我等が心の様に、ただ収穫の時を待つ。
La campanella suonerà di nuovo domani.
(鐘の音は明日も又鳴るのだろう。)
ラ・カンパネルラ。それはけざやかな音の爆発。
ラ・カンパネルラ。それは静かな音の湖。
ラ・カンパネルラ。それは悲しき調べ。
ラ・カンパネルラ。それは可憐な調べ。
甘い二律背反は泡沫の安らぎを呼び、哀しみの矛盾は永久の苦悩を描く。それに苛まれるのが人の性であるならば、何故この鐘の音はここまで私の心を掻き乱すのだろうか?
構想5分の問題作。