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第二話:隣国の森と、伝説のもふもふカフェ

王都を追放されてから一週間。私は隣国・レオンハルト聖王国の辺境にある、深い森の入り口にいました。


「……空気が、美味しいわ」


馬車を降りた瞬間、肺に流れ込んできたのは、呪詛の混じっていない「本当の」空気。

王宮にいた頃は、常に鼻をつく死臭と戦っていたため、花の香りがこれほど鮮やかに感じられるなんて思いもしませんでした。


「エルセ、見て! あのボロ宿、いい感じじゃない?」


使い魔のルナが指し示したのは、街道沿いにひっそりと佇む、蔦の絡まった石造りの空き家。

私は手持ちのわずかな資金でそこを買い取り、まずは一杯の飲み物を作ることにしました。


「さあ、まずは私とルナのために。……『鑑定、抽出、中和』」


森で摘んだ薬草と、持参した豆を錬金術で調合します。

立ち上がったのは、香ばしさと共に、心を芯から解きほぐすような深い香り。


「おいしー! やっぱりエルセのコーヒーは最高だね。あ、ついでに私の分は、あのベリーを混ぜたミックスジュースにしてよ!」


ルナと笑い合いながら、ボロ屋を少しずつ整えていく日々。

呪毒を鑑定する私の目は、今では「森の恵み」の最も美味しい部分を見極めるために使われていました。


そんなある日、店の裏庭に一匹の「大きな白い塊」が倒れているのを見つけました。

それは、傷だらけで泥まみれの、大きな狼のような生き物。


「……まあ、大変。あなた、ひどい呪毒に当てられたのね」


私は迷わず、その白い毛並みに手を触れました。

本来なら触れるだけで精神が汚染されるほどの猛毒。

けれど、私はそれを「鑑定」し、そっと指先から吸い上げて——私の体内で浄化し、無害な霧として空へ逃がします。


「もう大丈夫よ。……よしよし、ふわふわね」


意識を取り戻したその生き物は、伝説の魔獣「フェンリル」でした。

けれど彼は、私に牙を向ける代わりに、大きな舌で私の頬をぺろりと舐め、甘えるように喉を鳴らしたのです。


こうして、私の新しい生活が始まりました。

聖王国の騎士たちが「伝説の魔獣を飼い慣らす謎の美女がいる」と噂を聞きつけ、私のコーヒーを求めて行列を作るようになるまで、そう時間はかかりませんでした。





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