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最強魔導師は不毛の大地でスローライフを送る ~凶悪な魔物が跋扈し瘴気漂う腐界でも、魔法があれば快適です~  作者: えぞぎんぎつね


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02 来客

 俺が腐界への赴任に向けて準備を進めていると、


「聞いたわよ! ティル!」


 中に入ってきたのは、鮮やかな金色の長い髪が綺麗な二十代半ばの女性リラだ。


「宮廷魔導師を首になって、腐界に左遷されたらしいわね!」


 リラは扉を開いたまま元気に言う。


「一応、御領主様に栄転なんだけどな。……どこで知った?」

「神殿で知ったのよ、当たり前でしょ!」


 リラは近くにある神殿で働いているのだ。

 詳しくはないが、噂によるとものすごく才能にあふれている優秀な神官らしい。


 知り合ったのは二十年以上前、リラは子供だったし、俺も宮廷魔導師になる前の子供だった。

 幼なじみと言ってもいいのかも知れない。


 リラは俺が魔物討伐の合間に王都に帰ってくると、どこからか聞きつけてやってくるのだ。

 そして手料理を作ってくれたり、お菓子をくれたり、お守りをくれたりする。


「ティルは本当に馬鹿で間抜けよ! なんでうまく立ち回らないのよ! 本当に馬鹿!」

「そう馬鹿馬鹿いわないでくれ、俺だって――」

「なんで引き受けるの? 理不尽な辞令なんて断ればいいじゃない!」

「俺に断らせるのが狙いなんだよ。報復で――」

「そうなったら神殿が守ってあげるわよ!」

「そうはいって――」

「腐界なんかいったら、死んじゃ……ふぇぇぇぇぇ」


 リラは可愛い顔をくしゃくしゃにゆがめながら、声をあげて泣き始めてしまった。


 リラに泣かれたのは初めてだ。俺はちょっと、いや、大分慌てた。


「な、泣くなって。そう簡単に死なないし」


 宥めてもリラは泣き止まない。

 めちゃくちゃ強い魔物と対峙したときよりも慌てているかもしれない。


 泣き続けるリラを元気づけるために、俺は頑張って言葉を探す。


「こう見えて俺は強いから、腐界でも大丈夫だよ?」

「ふえええ」

「それに俺は元々腐界で研究したいって思っていたからな。丁度良かったんだ」


 しばらく俺はいかに大丈夫か、辺境開拓騎士という役職が都合が良いか説明した。


「……馬鹿」


 俺の説明を聞いて、少し安心したのか、泣き止んだリラは涙を拭って俺を睨む。


「すまない」


 何も悪くない気がするが、泣かせてしまったので謝っておく。

 目を赤くしながら、俺を見ずにリラはぼそぼそ話し始める。


「ほんとは止めようと思ったの。殺してでも」

「……物騒だな」

「でも、うちの神が大丈夫だっていうから……」

「神様の言葉なら心強いな」


 将来有望な神官なだけあって、リラはたまに神託めいたものを受けるらしい。

 詳しくは知らないが、占いのようなこともしていると聞いたことがある。


「それなら私もティルについて行こうと思ったのだけど……」

「……それは危ないだろ」

「拒否ったら殴ってでもついて行こうと思ったのだけど」

「やっぱり物騒だな」


 リラは俺の目をじっと見る。


「なんか、ついて行かない方がいいんだって」

「神様がそういってるのか?」

「その方が将来的に……結すば……なんでもない」


 よくわからないが、リラの神は、リラに辺境には行くなと言ったらしい。

 辺境は危険なので、お気に入りのリラに神がそういうのは当然だ。


「そっか。その方が良いよ」

「絶対! 絶対に手紙書きなさいよ!」

「わかった。でも届ける方法がな」

「それはうちの神殿に任せて! なんとかするし! 伝書魔鳩でもなんでも使うわ!」


 伝書魔鳩は、飼い慣らした魔獣の鳩を使った、非常に貴重な連絡手段だ。

 いくら将来有望な神官だとはいえ、まだ若いリラに伝書魔鳩を借りる力は無いだろう。

 だが、俺のために頑張ってくれようとするその気持ちが嬉しかった。


「ありがとう。ものすごく助かるけど無理はするなよ」

「余裕だから! 私、結構神殿では偉いのよ?」


 リラは元気に笑顔で言う。

 あまり暗い雰囲気にならないよう、無理してくれているのは俺にはわかる。


「それと、これあげる。うちの神が役に立つからって」


 そういって、リラが差しだしたのは護符だった。

 護符があれば、多少、腐界の瘴気を防ぐことができる。


 俺が作った魔導具と組み合わせれば短期間だが、瘴気を完全に防ぐことも可能だ。


「ありがとう、助かる……ん? いつもと少し違うな?」

「わかる?」

「ああ、だいぶ力がこもっているというか……」


 俺がそう言うとリラはどや顔で説明してくれた。


「気合いを入れて作ったの。だからいつもより力が強いわ。具体的には――」


 いつもの護符よりかなり強力で、壊れない限りずっと使えるらしい。


「おお、それは本当に助かるよ」


 俺の魔導具と組み合わせれば、半永久的に瘴気を完全に防ぐことができるようになるようだ。


「時間がかかるから、二枚しか作れなかったのだけど」

「二枚も? ありがとう、本当に助かるよ。ありがとう」


 そういうと、リラは笑顔になった。


「よかった」


 突然リラにぎゅっと抱きつかれた。


「リ、リラ?」


 柔らかい胸が押し当てられている。


「……これは偉い聖職者の祝福なの。これからティルは幸運に見舞われるから」


 リラは抱きついたまま呟くように言う。


「ありがとう。リラ」

「本当に死なないでね?」

「わかってる」


 一分ぐらい抱きついた後、顔を真っ赤にしたリラは「じゃあね!」と言って去って行った。



 リラが去ってから一時間後、再び来客が会った。

 やってきたのはフィロいう名の男だ。


 剣聖と呼ばれるほどの剣士で、一緒に強力な魔物を討伐した仲間だ。

 銀髪に青い目で、冒険者にしては高貴な雰囲気を漂わせている。


 実際、男爵と呼ばれているのを聞いたことがある。


「すまない。盗み見るつもりはなかったんだよ。だけど扉が開いてたし?」

「……見たのか?」

「抱き合っているところをな。だがすぐに目をそらして時間を潰してきたんだ」


 扉を閉めなかったリラが悪い。いや、悪くはない。

 リラは神殿で教育されているので、異性と二人のときは扉を開けておく傾向がある。


「……気を遣ってくれてありがとう」


 二人っきりのときは扉を開けておくくせに抱きつくとは。

 よく考えたら、リラの行動原理もよくわからない。


「……ティルに恋人がいたとは知らなかった」

「恋人じゃないけどね」

「どんな子なんだ?」

「見たんじゃないのか?」

「いや、後ろ姿をチラリと見ただけだ」


 フィロは真面目な男なのだ。


「そんなことより、どうした? 故郷に帰るんじゃなかったのか?」


 リラのことを根掘り葉掘り聞かれる前に、話題をそらす。


「そのつもりだったんだがな。ティルが腐界に飛ばされるって聞いてな」

「そうなんだ。耳が早いな?」

「貴族を舐めるな」


 男爵は下級貴族だが、貴族と言うだけでめちゃくちゃ偉い。

 平民の豪商や、平民の大きい都市の市長などより格はずっと高いのだ。


 そのうえ、フィロの家は男爵の中でもそこそこ有力らしい。

 きっと商売がうまかったり、一族に有力な政治家がいたりするのだろう。


「ティル。俺の実家から抗議して取り消してもらうこともできるぞ?」


 フィロは「恋人と離れるのはさみしかろう」と言う。


「だから、恋人じゃないって。だけど、ありがとう。気持ちだけいただいておくよ」


 フィロは友情に厚い男だ。だからこそ俺は断った。

 是非お願いしますなど言おうものなら、家運を賭けて王に直訴してしまうかもしれない。


 いくら有力とは言え男爵家。

 そんなことをしたら、フィロの実家が上級貴族に目を付けられてしまう。


 フィロに迷惑をかけるのは、俺の本意ではないのだ。


 だから、俺はリラに言ったのと同じことを言う。


「昔から言ってただろう? 俺は腐界で研究したいんだよ。腐界の問題は人族全体の課題だろ?」

「それはそうだが……」


 そう呟くように言うと、フィロは遠い目をして黙り込んだ。

 何も言わなくても、フィロと何度も生死を共にした俺には何を考えているかわかる。


 数年前に魔物の被害で亡くなったという子のことを思っているのだろう。


「そうだな。……それならば、我が家も協力しよう」

「いいのか? 助かるが」

「ああ、できることには限りはあるがな。必要な物資を定期的に届けさせよう」


 願ってもないことだ。


「ティル。もし辛くなったらいつでも開拓騎士など辞めろ。うちでティルを雇ってやる」

「ありがとう。そのときは頼むよ」

「……本当に無理はするなよ」


 リラもそうだが、フィロも俺のことを本当に心配してくれている。

 俺には心から案じてくれる友が二人もいるのだ。


 それだけで、頑張ろうという思いになる。


「それで、必要な物資だが……」

「まだ、わからん。必要だと思うものは持って行く予定だし。現地に行ってからだな」

「わかった。困ったことがあったら遠慮せずに頼ってくれよ。連絡方法だが……」

「多分、俺の師匠が定期的に連絡をくれると思うんだよ。そのときに手紙を託そうと思う」


 そんな打ち合わせをすませると、フィロがぼそりと呟いた。

「師匠か。魔導師には師匠は重要なんだよな」

「まあなぁ。特に大賢者から数えて何番目かってのが重要だな」


 千年前に存在したという大賢者から何十代目の弟子かというのが重要なのだ。

 大賢者の系譜に連ならない魔導師はいくら腕が良くても軽く見られる。俺みたいに。


「……ティルに有力な師匠がいれば、抑止力になるんだろうが……」


 フィロの言うとおりだ。


 俺が理不尽に左遷されたのは、平民出身なうえ、大賢者に連なる師匠がいないからだ。

 有力な師匠がいれば、宮廷魔導師長も理不尽なことはできなくなる。


「ティル。なぜ名目上でも、有力な魔導師に弟子入りしないんだ。紹介するぞ?」

「俺は師匠を敬愛しているからな」

「知っているよ。故郷の村の、ご高齢のおじいちゃん魔導師だろ?」

「まあ、そうだが」

「ティルを育てたんだ。きっと立派な魔導師なんだろう。だが無名の魔導師では意味がない」


 有力な魔導師の弟子だからこそ、守ってもらえるというのは確かにある。


「名義だけでもいいんだ。ティルの師匠だって、ティルのためなら許してくれるだろ」


 フィロは俺の師匠を知らないからそんなことをいうのだ。

 俺の師匠は、名義だけだろうと、絶対に許してくれない。そういうお方だ。


「そうかもしれないが……」


 だが、説明が厄介なので、フィロの言葉を否定しないでおく。


「俺は師匠を敬愛しているからな。師匠がいいんだ。師匠以外に弟子入りする気はない」


 これはフィロに対しての言葉というより師匠への言葉だ。

 師匠は地獄耳だから、どこで聞いているかわからない。


 本当に恐ろしい師匠なのだ。


「そうか。ティルの師匠は立派な方なんだろうな。一度お会いしたいものだ」

「ああ、機会があれば、紹介するよ」


 その後、しばらく談笑してからフィロは帰っていった。

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