第9話 空き家
翌朝。
ユーリアは、朝食の片づけをしながら口を開いた。
「……ねえ、お父さん」
「ん?」
「空いてる建物を探したいんだけど、どうすればいいかな?」
父は一瞬きょとんとしたあと、顎に手をやる。
「あるにはあるが……急にどうした?」
「トレーニングの人数が増えそうなの」
母と父は顔を見合わせた。
「まあ、そうだなあ」
母は頷き、父は思い出すように言った。
「そういえば、東通りに小さな空き家があったな。
前はたしか、倉庫代わりに使われてた建物だ」
「広さは?」
「十人くらいなら、余裕じゃないか?」
ユーリアは、ぱっと顔を上げた。
「……本当?」
「床も丈夫だ。人が集まる用途なら、悪くなさそうだ」
胸の奥が、どくんと鳴る。
(早速見に行かなきゃ)
◇ ◇ ◇
その日の昼。
アナと一緒に、件の空き家を見に行った。
「……ここ?」
「そうみたいね」
外観はモルタルに側面には大きな窓がいくつか、派手さはない。
でも、中に入ると――
「……思ったより、広いわ!」
「いいね!」
アナがくるりと室内を見回す。
床は木張りで、天井も高すぎない。
窓が多く、風も通る。
ユーリアは、自然と頭の中で配置を考えていた。
(ここにマットを敷いて、あそこに荷物置いて器具を設置して……)
「ユーリア、顔がもう“先生”よ」
アナは笑っている。
「完全に“どう使うか”考えてる顔ね」
「……バレた?」
そう言われて、思わずユーリアも笑ってしまった。
◇ ◇ ◇
「で、いつから始める?」
帰り道、アナがさらっと聞いてきた。
「……え?」
「だって、決めたんでしょ?」
ユーリアは、少し考えてから答える。
「……準備が整い次第?」
「えっと」
アナは指を折る。
「今いる人で、何人だっけ?」
「私含めて……八人かな」
「ちょうどいいじゃない」
確かに。
庭ではぎゅうぎゅうだった人数が、ここなら無理なく収まる。
「……じゃあ」
ユーリアは、小さく息を吸った。
「”教室”やろう!」
アナの顔が、一気に明るくなる。
「やった!」
その声に、ユーリアまでつられて笑ってしまった。
◇ ◇ ◇
夜。
日記を開く。
『空き家を確認した。広さ、問題なし、始められそう』
ペンを置き、少しだけ考える。
(名前……どうしよう)
(まあ、それは、後でいいか)
今は。
“続けたい人が、安心して来られる場所”
それを作ることが先だ。
ユーリアは、布団に潜り込んだ。




