第8話 庭、限界
それから数日。
少しだけ忙しくなった。
「ユーリア、今日も盛況ねえ」
「今日は五人来てるわ」
「増えたわねえ」
「そうだねえ」
母は苦笑しながら言い、父は庭を見て首を傾げる。
そこには、ぎゅうぎゅうに並んだ布の上で、
ストレッチをしている女性たちの姿があった。
「腕、ここまでで止めて」
「呼吸を忘れないように」
「はい、休憩!」
ユーリアは声を張り、動きを確認し、全体を見る。
だいぶ慣れてきたアナも時々アドバイスをしてくれている。
(ほんとに狭くなったわね)
あらためて庭に視線を走らせながら、思う。
人数が増えるのは嬉しい。
でも、全員がしっかりトレーニングするには狭い。
「ごめんなさい、ちょっと足ぶつかっちゃった!
「大丈夫大丈夫、私が寄るわ」
そんな声が何度も飛び交う。
(安全面も、微妙ね)
ストレッチを終えた頃、いつも通り全員が笑顔で汗をぬぐっていた。
「今日も気持ちよかったわ」
「家で一人でやるより、続けられそうな気がします」
笑顔を見るたび、胸が温かくなる。
同時に、安全第一という言葉が、頭をよぎった。
◇ ◇ ◇
「ねえ、ユーリア」
帰り際、アナが声をかけてくる。
「参加したいって人、結構いるのよ」
「……まだ?」
「そうなの。あと数人は確実に」
ユーリアは、思わず庭を見た。
今でもぎりぎりのスペース。
(……無理だわ、これ以上は)
「さすがに、庭は限界よね」
アナは苦笑して続けた。
「みんな、本気だからね。
ただ痩せたいというよりも……」
アナは、自分の胸に手を当てた。
「“自分を変えたい”って気持ちが感じられたわ」
その言葉が、ユーリアの胸に、すとんと落ちる。
(……私と同じだ)
異世界で目覚めた朝。
鏡の前で叫びそうになった、あの日。
(逃げずに頑張ろうとしてる人たちなんだ)
ユーリアは、息を吸い、吐いた。
「ちょっと考える時間が欲しいわ」
アナの目が見開かれる。
「場所ね」
「うん、このままじゃ、続けられない」
自分の言葉に、ユーリア自身が一番驚いていた。
(……私、自然に“続ける前提”で考えてる)
◇ ◇ ◇
夜。ユーリアの日記。
『参加希望者まだまだいるみたい。庭以外の場所を確保しないと』
中途半端にしたくない。
ユーリアは、ぎゅっと布団を握った。
筋トレの輪が広がってます




