第7話 気づけば、相談待ちの列ができていました
アナが成果を実感した日から、人が増えた。
「ユーリア、ちょっといい?」
「今、時間少し良いかしら?」
「ユーリアちゃん、ちょっと聞きたいことがあって……」
食堂「ルル」で給仕をしていると、声をかけられる回数が、明らかに増えたのだ。
最初はアナ。
それが、一人増え、二人、三人になり・・・
ユーリアに声をかけてくれる人の共通点は、みんな女性であること。
そして、少し、言いづらそうに話し始めることだ。
「実は……私、最近太っちゃって」
「昔お気に入りだった服が、入らなくなって」
「運動のやり方がわからないの」
ユーリアは、慌てず、否定せず、みんなの悩みをきいて、
その人のレベルにあったアドバイスを返していった。
「まずは、今の生活を教えて」
「初めから頑張りすぎないこと。できそうなことからでいいのよ」
「今のあなたなら、少しだけ負荷をかけてもいいと思うわ」
ユーリアのアドバイスに相手の肩が少し下がる。
(……ああ)
ユーリアは思う。
(みんな、“悩みを打ち明けられる場所”を探してたのね)
◇ ◇ ◇
「ねえ、ユーリア」
今日も今日とてトレーニングしに訪ねてきたアナが水を飲みながら言った。
今では少し軽めのバーベルを持ち上げれるようになっている。
「最近さ、私の友だちにも聞かれるのよ」
「なにを?」
「“どうやって痩せたの?”って」
アナはにっこり笑う。
「それに、“なんか元気そうね”って言われるの」
その言葉に、ユーリアの胸が、ふっと軽くなる。
「めっちゃ成果が出てるじゃない」
「でしょ?」
アナは頷き、少し声を潜めた。
「今日ね、3人にユーリアと運動したいって言われたわ」
「……三人も!」
「うん。そうなの。ユーリアさえ嫌じゃなければ、明日連れてきてもいいかしら?」
ユーリアは、一瞬だけ目を瞬かせた。
(……三人も増える・・・?)
頭の中で、庭の広さを考える。
敷いている布。ストレッチで寝転がれるスペース。
(……ぎゅうぎゅうだわ)
でも、来てほしい、みんなですると楽しいもんね。
「……いいわ」
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
「ちょっと狭いかもしれないけどできることを、やってみる」
アナは、ぱっと顔を明るくする。
「ほんと!?」
「ええ。ただし」
ユーリアは、人差し指を立てた。
「遊び半分は、お断りよ?」
「ええ、ちゃんと伝えるわ!」
◇ ◇ ◇
翌日。
庭に集まったのは、アナを含めて四人。
「えっと……こんにちは」
「はじめまして……」
みんな、どこか緊張した様子で立っている。
ユーリアは、ぐるりと全員を見渡した。
深呼吸して、口を開く。
「いきなり筋トレはしないわ」
全員が、ほっとした顔をする。
「まずは、身体を動かす準備です。
ストレッチからしましょう」
「それなら…」
「できるかも」
小さな声が、ぽつぽつ上がる。
ユーリアは、心の中で小さく気合を入れる。
(よし、掴みは成功かな)
布の上に座り、ゆっくり動きを見せる。
「比べない。無理しない。でも、サボらない」
「……サボらない!」
誰かが復唱して、くすっと笑いが起きた。
庭の空気が、少し和らぐ。
ストレッチを終えた頃、全員が軽く汗をかいていた。
「……意外と、気持ちいいわ」
「身体、ちょっと軽いかも」
そんな声が上がる。
ユーリアは、満足そうに頷いた。
「それで十分。今日の目標は、ここまで」
「え、もう?」
「これくらいなら続けられそうね」
全員が顔を見合わせて、笑った。
◇ ◇ ◇
夜。
ユーリアは、日記を開く。
『相談者、増加。生徒(?)は4人になった。
庭、手狭』
しばらくペンを止めて、考える
『場所が、必要かもしれないわ』
今日も疲れた。
でも、心地いい疲れだ。




