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美尻に人生狂わされたOL、異世界転生する!  作者: あけはる


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3/21

第3話 ジムがないなら、ダンベルを作ればいいだけの話

 翌朝。


 ユーリアは、家の裏庭で腕を組んでいた。


「……うん、やっぱりない」


 脂肪をためこんだこの体を動かし、王都の色々な雑貨店などを回ってみたが、

 この世界には、ルームランナーもなければ、ダンベルもない。

 そもそも街中に、筋肉の気配を感じなかった。


「魔力で光るランプはあるのに、なぜ鉄の塊がない……」


 ぼそりと呟くと、近くでパンをこねていた母が首をかしげた。


「てつ……のかたまり?」


「ううん、なんでもない」


 異世界で「筋トレしたいです!!!」なんて説明しても、通じる気がしない。


 ユーリアは深呼吸をして、頭を切り替えた。


 ないなら――作る。

 文明が違う? そんなの関係ねえ。

 筋肉は道具がなくても鍛えられるが、あったほうが楽しいんだよ。


 その日の午後。

 ユーリアは王都ドーリスでも腕利きと評判の大工、ガルドの工房を訪れていた。


「で、これを作れと?」


 ガルドは、机に広げられた紙を覗き込む。


 そこには、ユーリア渾身の手描き設計図。


 丸い円柱。

 棒。

 矢印。

 そして横に添えられた文字。


『重さを変えられる仕様』


「……これは、武器か?」


「いいえ」


「拷問具か?」


「違います」


 ユーリアは胸を張った。


「バーベルです!」


「……ばあべる……?」


 あの、両手で持ち上げリフティングしたり、肩に乗せてスクワットをしたり、円盤状の重りが棒の両端についているトレーニング器具だ。



 未知の単語を告げられ何にもわからない状態で、ガルドの理解はそこで止まった。


「まあ要は、持ち上げるための重たい棒です。

 筋肉を、こう……鍛えるための」


 両腕を曲げ伸ばしするユーリア。

 二の腕で揺れる極厚の脂肪が憎たらしい。


 ガルドはしばらく沈黙したあと、真顔で言った。


「……それで、痩せるのか?」


「痩せます。引き締まります。尻もきゅいんと上がります」


「きゅいん・・・?」


 ガルドは一瞬、遠い目をした。


「……まあ、金は払うんだな?」


「もちろん!」


ユーリアはほくほくで完成を待った。


◇ ◇ ◇


 数日後。

 完成したそれを見て、ユーリアは感動に打ち震えた。


「おお……! これぞバーベルよ!!最高!!」


 異世界産・手作りバーベル。

 素材は鉄っぽい何かと、魔力を通しにくい木材。

 見た目は若干ゴツいが、持てば分かる、この重量感。


「ユーリア……それ、本当に大丈夫なの?」


 母が不安そうに見守る中、ユーリアはさっそく庭でスクワットを始めた。


「だい、じょうぶ……ですっ!」


 しゃがむたびに、太もも(と蓄えた脂肪)がぷるぷる震える。


 正直、きつい。

 めちゃくちゃきつい。体力は皆無だし全身の筋肉(と脂肪)が悲鳴を上げている。


 でも――懐かしい痛み。


(ああ、これだ)


 この、逃げたくなる感じ。

 筋肉が雄たけびを上げる感じ。



◇ ◇ ◇

 その夜。


 ユーリアは台所で、何やら怪しい液体をかき混ぜていた。


「ふふふ・・・何かわからないけど異世界のフルーツ……豆類……ミルク……」


 ブツブツ呟きながら、さながら魔女のように小鍋をグルグルかき混ぜているユーリア。

 父が恐る恐る覗き込む。


「それは……飲み物か?」


「プロテインです」


「ぷろ……?」


「筋肉の友!運動後に!プロテインがないと!私は、生きていけない!」


 日中バーベルに張りきったが、運動後に毎回飲んでいたプロテインドリンクが無いことに気づき、

ユーリアは再び、発狂しかけたのだ。


(プロテインを作らねば!筋肉が戻ってきてくれない!!)


 

 ようやく完成したそれは、見た目こそ微妙だったが、味は意外と悪くなかった。


「……いける」


 ごくりと飲み干し、満足げに頷く。

「これは筋肉になる、なるぞ・・・」


 両親は顔を見合わせた。


「ユーリア、最近ちょっと……変わったな」

「まあ元気なら、いいんだけどねぇ」

「そうだなあ」

 生暖かい視線を背に、ユーリアは今日もバーベルを持ち上げる。


 鏡に映る自分の体は、まだまだ脂肪を大事に抱えている。

 

「……よし」


 ユーリアは笑った。


 バーベルを作り、プロテインドリンクを作ることができた。


(筋肉は、どこにでも作れる・・・!)


 そうして、異世界初のDIY筋トレライフが始まっていった。

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