第22話 試される覚悟、次の生徒
応接室の空気は、前回よりも確実に重かった。
柔らかな絨毯、磨かれた調度品、静かに注がれる紅茶。
そのどれもが“整いすぎている”がゆえに、緊張を際立たせている。
ユーリアは背筋を伸ばし、ラウレンツ侯爵夫人エカテリーナと向かい合っていた。
「では、条件をお伝えしますわ」
エカテリーナは前置きなく切り出し、白魚のような人差し指をすっと立てた。
「一つ。あなたの活動は、今後“ラウレンツ侯爵家の紹介案件”として扱われます」
「……その意味するところは?」
ユーリアが静かに問う。
「後ろ盾、というほど露骨なものではありませんわ。ただ――」
香り高くブラウンに透き通った紅茶を一口。
「あなたが“怪しい存在ではない”という保証。それを我が家が与える、という意味です」
(信用を渡す代わりの首輪、ってことね)
ユーリアは頭をフル回転させる。
「二つ目、成果の“公開”は、こちらが指定するタイミングで行います」
「公開、とは?」
「夜会、茶会、噂話……つまり社交界、です」
侯爵夫人は軽い口調だが、重みは十分だ。
「イーゼルベルグ伯爵令嬢のお名前は、当面出しませんわ」
一拍、置いて。
「ですが、“成功例がある”という事実は必要ですのよ」
応接室に、薄い緊張が走った。
◇ ◇ ◇
「三つ目」
エカテリーナは、少しだけ姿勢を崩す。
「今後、貴族向けの指導依頼が来た場合、そちらを優先していただくこと」
「庶民向けのクラスは?」
「禁止はいたしませんわ」
にこり。
「ただ、比重は……ご理解いただけますことね?」
ユーリアは紅茶の湯気を眺めながら、頭の中で線を引く。
(これを全部飲んだら、私は“便利な駒”になってしまう)
ゆっくり顔を上げた。
「……こちらからも、条件を出させてください」
エカテリーナの目が、楽しそうに細まる。
「どうぞ?」
◇ ◇ ◇
「エレノア様は、途中経過では表に出しません」
「……」
「結果を急がせる扱い、演出目的での露出は、すべてお断りいたします」
声は穏やかだが、意志の強い表明。
「私の指導内容へのクレームは受けません、
万が一そういうことがあれば即座に、辞退させていただきます」
エリザベスは内心冷や冷やしつつも、娘エレノアのこともあるため
微笑みを動かさず、聞いている。
エカテリーナは、ふっと一息ついた
「……やはり、一筋縄ではいきませんね」
鋭く細めた紫の瞳は挑戦的にきらめいている。
「その条件、即答はできません」
侯爵夫人は立ち上がった。
「“試験期間”を設けましょう」
◇ ◇ ◇
「試験……?」
「ええ」
「次にご紹介する方を、あなたがどう導くか」
視線が、まっすぐユーリアを射抜く。
「その姿勢と覚悟を見て、判断いたします」
ユーリアは、迷わず頷いた。
「分かりました」
◇ ◇ ◇
今回も嵐のように去っていった侯爵夫人。
その夜ユーリアのもとに、一通の封書が届いた。
『次回の指導対象は、ラウレンツ侯爵家・親族令嬢コーデリア』




