第18話 決めた人間は、歩き方が変わる
朝。
使用人たちが行き交う廊下で、年配の侍女はふと足を止めた。
(あら、エレノアお嬢様の後ろ姿……)
気のせいかと思い、もう一度振り返る。
スッと伸びた背筋に、体幹のブレも少なくなった。
足音も、ばたついていない。
姿勢が、崩れていない。
(これなら、あの形のドレスも着こなせるのでは…)
劇的変化ではないが、
けれど、長年仕えてきた者にも今後を期待させるような明らかな変化だった。
◇ ◇ ◇
「エレノア」
昼食前、伯爵夫人エリザベスが声をかけた。
「最近の調子はどうかしら?」
エレノアは一瞬考え、
「まだ少し、変化は少しですが」
そして、微笑む。
「毎日達成感をもって過ごせていますの」
エリザベスは、何も言わずに娘を見つめた。
過保護な母のそれではなく、娘の成長をまぶしく見つめるていたのだった。
◇ ◇ ◇
午後。
使用人たちの間で、小さな変化が囁かれ始める。
「最近、エレノア様……」
「ええ」
「なんだか、雰囲気が」
「気づかれましたか」
誰も“痩せた”とは言わない。
誰も“大きく変わった”とも言わない。
けれど、
「「「エレノアお嬢様はここ数か月、目が、違うわ」」」
全員が静かに頷いた。
◇ ◇ ◇
ユーリアはエレノアに水を渡しながら、さりげなく尋ねる。
「夜会を断ったことで、少し楽になりましたか?」
エレノアは、水を一口飲んでから答える。
「……はい、正直、ですが逃げたわけじゃないことは、自分で分かっておりますわ」
それを聞いたユーリアは、にっと笑った。
◇ ◇ ◇
――その頃。
伯爵家の外門の前に、馬車が一台、静かに止まった。
御者が小声で確認する。
「……ここが、イーゼルベルグ伯爵家で?」
馬車の中から、落ち着いた女性の声が返る。
「ええ」
カーテンの隙間から覗く視線は、探るようだった。
「ある噂を聞いたのよ」
エレノアの知らないところで、
世界は、すでに次の一歩を踏み出そうとしていた。
――それに気づくのは、もう少し先の話。




