第17話 進捗
伯爵夫人である母エリザベスに呼ばれ、
応接室に入ったエレノアは、少し緊張した様子だった。
「お母様、どのようなご用件でしょうか……?」
伯爵夫人は、封筒をそっと差し出す。
「あなたに春の夜会の招待状が来たわ」
エレノアは、はっと息を呑んだ。
夜会。
蔑みの視線を向けられ、全てが自分の悪口に思えてくる、居心地の悪い場所。
壁際に貼り付いてただただ終わりを待つだけの空間。
エレノアは、封筒を受け取りながら、ゆっくりと考える。
――今の自分は、どうだろう。
ユーリアとともに運動を始めてからはや数か月。
確かに身体は変わってきている。
それはドレスのサイズだったり、歩く姿勢の改善だったり、食事量だったり。
明らかに痩せてきている実感もある。
けれど。
(……まだ、ですわ)
はっきりと思った。
エレノアは、封筒を静かにテーブルに置いた。
「……今回は、辞退したいです」
エリザベスは、エレノアの表情を優しく見つめる。
「私のかわいいエレノア。その理由を聞かせてくれる?」
エレノアは迷わず答えた。
「もっと変化をつけて、みんなを見返したいから、ですわ」
まっすぐな声だった。
「中途半端な状態で、恥をさらしたくありません」
一度、言葉を切る。
「もっと自信をつけて、イーゼルベルグの名前を背負い、堂々と立ちたいんです」
自分の立つ場所を、自分で選んだ言葉だった。
娘の固い決意を認め、伯爵夫人はおだやかにほほ笑んだ。
◇ ◇ ◇
ユーリアは、翌日エレノアからその話を聞いた。
「……正解だと思います」
エレノアは、少し緊張した顔で尋ねる。
「先生もそう思われますか」
「はい」
ユーリアは、穏やかに、しかしはっきり続けた。
「今は、いわば基礎工事の途中。完成披露は後に取っておきましょう!」
その言葉に、エレノアは思わず小さく笑った。
「……変な例えですわ」
「でも、エレノア様も、思いは同じでしょう?」
「驚かせてみせますわ!」
二人はえいえいおうと、と元気よく拳を突き上げた。
◇ ◇ ◇
夜。
エレノアは自室ベッドで豪勢な天蓋を見上げていた。
(いつかは、変わった自分で、胸を張って行くのよ)
(……前に進んでいる実感があります、がんばるのよ、エレノア)
エレノアは、静かに微笑み、まどろみの中へ落ちていった。




