第11話 噂
食堂「ルル」で仕込みをしていると、母が首をかしげた。
「……ねえ、ユーリア」
「なに?」
「外、なんだか人が多くない?」
言われて耳を澄ますと、確かに複数の女性の声が聞こえる。
「ここで合ってる?」
「“ゆるトレクラス”……」
「アナさんに聞いたんだけど・・・」
ユーリアは、ぴたりと手を止めた。
(……え?)
そっと裏口から覗いて、息をのむ。
見覚えのない女性が、5人ほど店の前に立っている。
いや、それだけじゃない。通りの向こうにも、ちらほら。
◇ ◇ ◇
「おはようございます……」
ユーリアが声をかけると、全員が一斉にこちらを見る。
「ユーリアさんですか?」
「“ゆるトレクラス”の先生……」
「友だちが通ってて」
「すごく良いって噂を聞いて……」
矢継ぎ早に言葉が飛んでくる。
胸の奥が、じんと温かくなる。
それと同時に、冷静な自分が顔を出す。
(……この人数は、入れれないわ)
「今日は、見学だけになりますけど大丈夫ですか」
そう告げると、少し残念そうな顔もあったが、
意外にも、皆すぐに頷いた。
「ちゃんと見てくれるって聞いたから」
「どんな感じなのかしら」
「楽しみですわ」
◇ ◇ ◇
その日のクラス後。
見学者は口々に感想を言いながら帰っていった。
アナが、水を飲みながら肩をすくめる。
「完全に、噂になってるわね」
「うん……想像以上に」
今日の参加者は、
元々の8人+体験希望が3人が限界だった。
「ねえ、ユーリア?無理、しないでね」
アナの声は、少し真剣だった。
「あなたは優しい。それが良いところでもあるけれど・・・
“いい人”でい続けると、潰れちゃうわ」
その言葉に、ユーリアは静かに頷く。
「ちゃんと、安全に続けたいし」
(私のやり方で)
◇ ◇ ◇
翌日。
入口に、紙を貼った。
『ゆるトレクラス
現在、定員調整中。
新規・体験はご相談ください』
それを見て、ざわつく声。
「え、もう満員?」
「人気なのね……」
その声を聴いて胸が、少し痛む。
「すみません」
ユーリアは、丁寧に頭を下げた。
「ちゃんと安全にできる人数で、続けたいんです」
その姿に、納得したように頷く人たち。
「そうね、空きが出るまで待ちましょう」
「安心できる教室ね」
胸の奥が、じんわり温かくなった。
◇ ◇ ◇
――その頃。
王都ドーリス、貴族街。
とある邸宅の客間で、数人の貴族夫人が紅茶を飲んでいた。
「最近、面白い噂を聞いたの」
「まあ、なんでしょう?」
「庶民の娘がね、女性向けの運動教室を開いているそうよ」
カップが、ことりと音を立てる。
「運動?」
「ええ。それが結構効果があるって噂なの。
魔法も薬も使わないけれど、身体を動かすだけで、体型と肌が変わんだって」
「……それ、本当?」
別の夫人が、思わず自分の腕を見る。
一瞬、沈黙。
やがて、誰かがぽつりと言った。
「……それは」
「気になるわね」
視線が、静かに交わる。
「場所は?」
「王都の東通り。“ゆるトレクラス”と名乗っているそうよ」
その名前に、少しだけ笑いが起きた。
「……ふふふ、ずいぶん、気楽な名前だわ」
一人の夫人が、紅茶を置く。
「“安全に痩せられる”んですって。ちょっと魅力的だと思わない?」
その言葉に、貴婦人たちはおのおのの身体を眺めながめて沈黙する。
興味。期待。そして、ほんの少しの希望。
はたして噂が、届く先は・・・。
美容の情報ってまわるの、めちゃくちゃ早いですよね




