〜猫とバラバラ殺人~ACT7
あれから数日が過ぎていた。もちろん進展があったわけではない。健吾も通常通りコンビニのバイト中である。
私はというと、店の中に入るわけにはいかないので、というより、前に、普通に店の中に入ろうとして、店長という男につまみ出されたので、仕方なく店の周りで日向ぼっこをしている。
最近は少し暖かくなってきたので、コンビニの前の駐車スペースでも悪くはない。このコンビニで、私が良く昼寝をしているのが、店の裏にある四角い箱の上だ。たしか室外機というのだったと思う。
一年中動いていて、絶妙な温度であたたかい。今日くらいの気温の日なら快適な場所である。そして、この場所は、店の奥にある事務所の中の声が、聞き取れる場所でもある。
店の奥にある事務所は、防犯のためか、窓や外につながる扉などはない。普通ならば、そのような密閉された場所の声を聞き取ることはできない。しかし、猫である私の耳ならば簡単である。
もっとも、わざわざ人間同士がしている、どうでもいい会話には興味がない。たまたま、この室外機の上からは、会話を聞き取れるというだけである。
そういえば、前にこの店のスタッフの一人の財布が盗まれた事件があった。その時に、たまたま犯人の声を聞いていた私が、財布を盗んだ犯人を特定したことがある。同じバイトスタッフの一人であったが、これは健吾の手柄ということになっている。
猫である私が特定したとは言えないからだ。この時以来、このコンビニのスタッフの中では、健吾は頼れる先輩のような立ち位置になったようである。あのド天然な佐伯雪菜が、今回の事を健吾に相談したのも、こんな経緯があったからだ。
そんな事を考えながら、室外機の上であくびをしながら、体を大きく伸ばしていると、事務所の中から健吾の声が聞こえてきた。どうやら電話で話しているらしい。
「彼女から連絡があったんですか?」
そう言った健吾の声に、私も反応していた。耳を立てピクピク動かしながら、事務所内の声を拾いやすくする。どうやら、こないだのライターとかいう仕事をしている女からの電話らしい。たしか、凛子といったはずだ。
「じゃあ、これからサヤカさんと会うんですか?」
どうやら、これから凛子は、あのサヤカと名乗った女と会うようだ。健吾の声から、電話の内容が見て取れる。あるいは、私がここにいるかもしれないと考え、わざとわかりやすく声を出しているのかもしれない。
「わかりました、オレ達もすぐに合流します」
健吾は、オレ達と言ったが、電話の相手である凛子は、猫である私と認識しているのであろうか?その言葉を聞いて、私は少し疑問に思った。
「いえ、ちょっと気になる事があるので」
どういう会話がなされているかは、詳しくは不明だが、ただ女同士が会うだけで、だいの男がいちいち合流するのは大袈裟であるため、問い詰められたのだろう。そんなやり取りがわかる答えをする健吾の声が聞こえてきた。
「いえ、それは合流してから」
とりあえず、合流してからという事で誤魔化したようである。
「もし、密室とかで会う場合は、彼女に気付かれないように、入口のカギを開けておいて下さい」
一応、そのような指示を出しているが、凛子という女が、言われた通りにするかは疑問である。
「はい、現在他など、こまめに連絡下さい」
どうやら、話しはまとまったようである。私達はこれから凛子という女と合流する事になったのだ。
「お疲れ様で〜す」
電話を切った直後に、間の抜けた声が聞こえてきた。おそらく事務所の中に誰かが入ってきたのだろう。良く聞くとよく知る人物である。あのド天然で有名な、佐伯雪菜の声であった。
「ちょうどいいところに!!」
そう言った健吾の声は、少しうわずっていた。
「何かあったんですか?」
おそらく、声のトーンからキョトンとした顔で答えているであろう雪菜が答えた。
「ちょっと悪いんだけど、これからバイト変わってくれる?」
「構いませんけど、どうしたんですか?」
雪菜が尋ねる。
「頼まれて調べていた事が、進展しそうなんだ」
勢いよく話す健吾の声が聞こえた。
「え?じゃあ解決ですか?」
驚いているようだが、相変わらずゆったりした口調で雪菜が尋ねた。
「今から行ってみないとわからないけど、そうなるかもしれない」
ゴソゴソという音が聞こえるので、たぶん帰り支度をしながらであろう健吾が答えた。
「なので、申し訳ないけどこの後の時間、かわってくれる」
と、もう一度念押しに、雪菜に言う健吾
「わかりました。頑張ってきて下さい」
「ゴメンね、あとよろしく」
やっぱり呑気な口調で言う雪菜に言いながら、おそらく健吾は事務所を慌てて出て行ったようである。私もそれに合わせて店の入口に移動していった。
「やっぱり裏にいたんだな」
入口から出てきた健吾は、私の姿を確認すると、予想通りというように言った。
「話しも聞いてたんだろ?」
さらに少し小走りになりながら健吾が言う。
「ああ」
私は、そのスピードに付いていきながら、答えた。私達は、こうしてサヤカと名乗った女の待つ地に赴く事になった。そして、私達はどこかで感じていた。決戦の時を。