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〜猫とバラバラ殺人~ACT6

凛子は、一度、雑誌社に戻り準備を整えてから再度渋谷に戻ってきていた。私達も家に一度帰ってから、戻ってきている。


「もう、眠すぎる!一回帰ろう。ちょっと仮眠をとりたい」

凛子と別れた後、健吾がそう言い出したので、私は渋々それにしたがっていた。そうして、私達は渋谷の一角に来ていた。


時間は、夜の七時をまわっている。渋谷の駅前は、再開発によって利用する客層が変わってきているという。再開発の前までは、若者の街の代名詞であったが、現在は年齢層が少し上がっているそうである。


これは、再開発によって、今までよりも高級な飲食店などが増えたかららしい。渋谷に集まっていた若者は、他の街に流れはじめているらしい。


「たちんぼ」と言われる売春行為が、この街に移動したのは、この街を利用している年齢層が上がったからかもしれない。つまり、ある程度の収入を持つ年齢層が、集まる街に変わったからである。


このような客層をターゲットにして、彼女達は集まっているのである。そして、この再開発された駅前から、少し離れた細く薄暗い道路に彼女達は集まっていた。道路の両端に等間隔で並んで、声をかけられるのを待っている。


元々の大久保公園ほどの人数が集まっている訳ではなく、小規模ではあるが、数十人単位の女と、彼女達を目当てに集まった男達がいる。この一角に来た私達を、周りの人間は訝しげに眺めている。当然である。猫である私を肩に乗せた男と、スーツを着た女が一緒に歩いていれば、この場所では異質である。


「どうします?とりあえず、誰かに声をかけてみますか?」

健吾は、凛子に提案する。できれば凛子に声をかけてもらいたいのであろう。このような場合、男が声をかけるより警戒されづらいと考えたのだろう。もっとも、猫を肩に乗せている男を警戒するかは疑問であるが。


「そうですね、ちょっと声をかけてみましょうか?」

凛子は、健吾の考えを察したのか、そう答えた後、近くでスマホをイジりながら声をかけられるのを待っているのであろう女に声をかけた。健吾はその少し後ろで、成り行きを見守っている。しかし、この後、何人かの女に声をかけたが、ほとんど相手にしてもらえなかった。


「なら、サヤカさんに聞いてみたらどうですか」

十人以上の女に声をかけて、やっとそんな風に話す女がいた。どうやら、サヤカという女は、このエリアで売春行為をしている女達の中心的な人物のようである。


別に取り仕切っている訳ではないらしいが、女達の世話や揉め事の仲裁を幾度かした事で、そのようなポジションとして認識されているらしい。私達は、サヤカの存在を教えてくれた女に礼を言いながら、サヤカという女がよく立っているという場所に歩いていった。


「そのサヤカという女性に会えば、何かわかるでしょうか」

健吾は、凛子に話しかけた。


「こういう時って、自然と全体を取り仕切る人とか、情報通とかがいたりするので、何か情報を得れるかもしれないですね」

凛子がそう言うのを聞いて、健吾はそういうものなのかっと関心していた。


「やっぱりプロのライターさんですね。」

「大貫さんも、探偵さんなんでしょ」

凛子が尋ねるのに対して、健吾は苦笑した。


「俺は、ちゃんとした探偵ってわけではないので。普段、俺達が相手をする対象は人間ではなく、ちょっと特殊なんです」

「やっぱり、猫探しとかですか?」


健吾の肩に乗っている私を見ながら凛子は尋ねた。猫を連れているから、猫探しをする探偵だと考えるのは安直ではあるが、そんな風に考えるのも納得できる。


「猫探しではないですが、特殊な分野ですね」

「そうなんですか」

凛子は、腑に落ちない顔をしながら、深くツッコまずに話しを流した。ちょうどサヤカとかいう女が、いつも立っているというエリアに来たからである。




「そうですか、やっぱり彼女達だったんですね」

そう答えたサヤカという女は、私達に好意的であった。肩より少し長い黒髪を真中で分けた髪型は、彼女の雰囲気にあっていると言える。


少し地味な雰囲気だか、整った顔立ちと白い肌にこの髪型がマッチしている。服装も黒っぽい色でまとめ上げられており、どこか神秘的な雰囲気をかもし出していた。


「やっぱり、というのは?彼女達とはお知り合いなのですよね」

凛子がサヤカと名乗る女に尋ねる。


「ここで顔を合わせて、少し話したりするぐらいでしたから」

そう言ったサヤカは、少しうつむくように視線を落とした。


「実は、本当の名前とかも知らないんですよ」

そう言ったサヤカは、少し目を細めるようにして話す。


「ここで本当の名前を名乗る人は少ないです。私のサヤカっていうのも本当の名前じゃないですし」

そう話しながら、サヤカを名乗る女は、私達の方を少しながめ、少し不思議そうな顔をした。


まあ、猫を肩に乗せた男を見れば、不思議がるのも当たり前ではある。ただ、あるいは私達に何かを感じたからかもしれない。


「SNSのDMとかで、少し連絡をとったりした事はありますが、他で会ったりとかはないですし、プライベートとかもわからないんです」

そう、サヤカは申し訳なさそうな表情で話した。


結局、このサヤカという女からは、これといった話しは聞く事はできなかった。このような事をしている女同士の繋がりなど、こんなものなのだろう。女達の繋がりは、だいたいわかったが大した収穫はなかったと言える。


もっとも、ライターである凛子や警察ならば、ここに来る客が怪しいと考えるだろう。つまり、客として女達に近づき、獲物を物色している人間がいる、と考える。ただ、私と健吾の考えは少し違った。


「やっぱり、犯人は彼女達のお客の中にいるんでしょうか?」

サヤカと別れた私達は、駅前に歩きはじめていた。女達が集まるエリアから離れてすぐ、凛子は独言のように話した。


「今の情報だけで普通に考えれば、その可能性が高いでしょうけど」

「何か気になる事でもあるんですか?」

健吾の歯切れの悪い答えに凛子が尋ねた。


「いや、発表はありませんが、もしかしたら警察もそう考えているかもしれないですね」

健吾は、少し誤魔化すように、そう答えた。後で知った事だが、実際この時点で警察も同じ考えで捜査していたようである。


3人目の被害者との共通点は見つかっていなかったようだか、このエリアに出入りしていた人間を、付近の防犯カメラを使って特定していたのである。


「とりあえず、今のところ断定は難しいんじゃないですか?」

健吾の答えに、モヤモヤしている様子の凛子は、少し強い口調で尋ねる。


「大貫さんは、何か気付いた事があるんじゃないですか?」

強い口調になった凛子に、少し驚きながら


「気付いた事ではないのですが、あのサヤカって女性が本当の事を話してるとは限らないので」

「彼女を疑ってるんですか?」

凛子は、目をまわるくして聞く。おそらく凛子の予想外の考えだったのだろう。


「ここの女性達って、知り合っても特殊な関係性じゃないのですか」

「そうですね」と、少し落ち着いた凛子。

「自分の都合の悪い事を話したりしないでしょう。他の女性達のために」

凛子が健吾の話しに頷く。


「なので、全ての話しを鵜呑みにするのは危険かな〜と思って」

普段の健吾ならば、あのサヤカという女の話しを鵜呑みにしていただろう。


この健吾という男は、人が良いというか、あまいところがある人間である。簡単に人を信じるところがあるのだ。ただ、今回に関してはそうではなかった。おそらく私も感じた違和感のせいだろう。


「何かあったら、連絡を下さい」

健吾と私は、今回のサヤカという女と情報について凛子と少し話した後、そう言って解散した。凛子は、この時間からオフィスに戻って仕事をするらしい。




「サヤカって女性の事、どう思う?」

健吾は、最寄り駅から、住んでいるアパートまで歩く途中に聞いてきた。


このあたりは、人通りが少ないので話しやすいと考えたのだろう。他の人間がいる前で、普通に猫と話していれば、変な目で見られるからだ。


「違和感はあるが、なんとも言えないな」

「そうだよな」

私の答えに健吾が呟いた。


「力を増したヤツの中には、自分の気配を消せるヤツもいるからな」

「ああ、でも何か関係があるんだろ?あの感じ」

健吾は、私の答えに頷きながら言う。


「たぶんな。無関係ではないだろうな」

私の答えに、健吾も同意しながら歩いていた。健吾は、本職の探偵のような事はできない。だが、彼等より私達が優れている事がある。


それは、この感覚だ。ヤツ等が関わる事件において、私達の感覚がハズレる事はない。私より精度は劣るが、健吾の感覚も高い。なにせ、私が認めるくらいなのだから。私達の次の行動は決まっていた。サヤカという女である。




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