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〜猫ときさらぎ駅~ACT3

昼前の駅前を多くの人が行き交っていた。今私達がいる駅の周辺には、それ程大きな施設などはない。駅前に複数の店などが立ち並んでいるが、それ程栄えているという雰囲気ではない。


この駅を利用する人間は、近くにある大学の学生が多いようである。もちろん、一般のスーツ姿や作業着姿の人間を見る事もある。


どうやら、駅から少し外れた所には、企業の事務所などが集まるエリアがあるようだ。また、工場などが立ち並ぶエリアもあるらしい。


そのため、近くにある大学の学生だけでなく、一般社会人と思える服装の人間の人数も少なくはない。そういえば、少し歩いた先に他の路線の駅があると、健吾が言っていた。


この駅前を通る道は、他の路線の駅との連絡通路としての役目を担っているのだろう。その駅を利用する人間も、この駅前を行き来しているようである。


私達は、この駅前で佐伯雪菜と待ち合わせをしていた。雪菜の友達だという女と会うためである。きさらぎ駅で姿を消した、雪菜のもう一人の友達、三村綾女と最後に会っていたのが、その女なのだそうだ。


どうやら、その女自信もきさらぎ駅を目撃したようである。その女からきさらぎ駅への行き方を聞き出す事ができれば、雪菜の友達を見つけ出す事ができるかもしれない。


逆に言うならば、きさらぎ駅に行く事ができなければ、雪菜の友達を見つけ出すのは難しくなるだろう。私はそんな事を考えながら、健吾の肩の上で、モゾモゾと動きながら姿勢を変えた。


何故か駅前に立つ私達に周りの人間が視線を向ける。私達を見て、遠巻きにヒソヒソと話ながら笑っているヤツもいた。


「なんだ?やけに周りの人間が私達を見てないか?」

そう言った私に少しため息をつくような仕草をしながら健吾が言う。


「イヤ、駅前で肩に猫乗せた男が立ってたら、誰だって見るだろう」

ややツッコむような口調で言う健吾の言葉に、私は納得した。


「そう言われてみれば、たしかに」

私は、周りの人間達を見ながら答えた。


「すいません!!遅くなってしまって!!」

私達がそんな話をしていると、遠くから走りながら雪菜が現れた。どうやら、大学という場所から来たようである。


「授業が少し長引いてしまって」

私達のもとまで来た雪菜は、そう言いながら荒い息を整えようとしていた。


「いや、大丈夫時間通りだよ」

健吾はそう答えた後、雪菜の呼吸が戻るのを待っていた。


「あ、源之助もおはよう」

まだ少し荒い息をしながら、雪菜は私にも話しかける。


「ごめんね、今日はオヤツを用意してないの」

そう言いながら、健吾の肩に乗っている私の頭から背中にかけてを撫ではじめた。


「なんだオヤツはなしか、期待してたのに」

この私の言葉は、普通の人間にはいつも通り猫の鳴き声にしか聞こえない。


「おい、あつかましいぞ」

私の声に唯一答えるのは、いつも通り健吾だけである。


「源之助、なんか言ってるんですか?」

こちらもいつも通り雪菜の天然な質問が入る。どうやらこの女は、健吾が猫である私と話していても変に思わないようである。おそらく、その理由はド天然だからだろう。


「いや、残念だなって」

健吾はいつも通りマイルドな言い回しで雪菜に伝える。


「あ、じゃあ今から買ってきましょうか?」

「いや、いいよいいよ!!」

雪菜の提案に健吾がすぐに制止に入った。


「なぜ止める!!買ってきてくれると言ってるのに」

「オマエはちょっと黙ってろ」

そう言った私に、健吾は少し声を荒げて言った。私は少し不貞腐れたようにしながら、健吾の肩の上でモゾモゾとポジションをズラしていた。


「えっと、きさらぎ駅に行ったっていう友達とは、大学内で会う約束をしてるんだよね?」

健吾は話を変えるように雪菜に尋ねる。


「あ、はい。昼休みに大学内のカフェで待ってもらっています」

健吾が無理やり話を変えた事に、少し不思議そうな顔をしながら雪菜は答えていた。この後、私達は雪菜が通っている大学に移動しながら話を続けた。


「これから会う友達って、行方不明になった三村綾女さんだっけ?と最後に会っていた人なんだよね?」

健吾は雪菜と二人並びながら、大学に向かう道で尋ねた。


「私も、まだちゃんと話を聞いてないのですが」

雪菜はそう前置きをして


「綾女ちゃんが、きさらぎ駅に降りたのを見たそうです」

と、健吾に答えた。


「という事は、彼女もきさらぎ駅を目撃したという事だよね」

健吾は、昨日私がした指摘を雪菜にする。


「あ!!そうなりますね」

おそらく雪菜もその部分を失念していたのだろう。しかし、あるいはこれもアレが関わっているからかもしれない。こういう場合、アレにとって都合の悪い事は他の人間には認識されにくくなる事があるからだ。


「という事は、きさらぎ駅への行き方も知っているかもしれないね」

健吾は雪菜に優しい口調で言っていた。そのような情報共有をしながら、二人と一匹は雪菜の通う大学へと向かった。




雪菜が言っていた大学のカフェは、大学内の真中にあった。ちょうど中庭のように広くスペースがとってある部分に接した、建物の一角にある。


すぐ真前には、緑の芝生があり、そこに備え付けられたベンチに学生が座る事ができた。また、芝生の一角にシートを挽いて座っている学生もいるようである。


カフェで買った飲物を、この芝生のエリアで飲んでいる学生もいる。また、この大学のカフェは、建物の外の部分にもテーブルとイスを並べたスペースがあった。


猫である私を連れている健吾は、建物の中のカフェには入る事ができない。そのため、カフェの外のスペースや前の芝生などで、目当ての女と会えるようにするための雪菜の配慮であろう。


私達は、店の中で飲物を買って、カフェの外に備え付けられたテーブルについた。席に着いたと同時に、女に声をかけられた。


「雪菜ちゃん、ゴメン遅くなっちゃった」

そう言って雪菜に近づいてきた女は、私達が会う約束をしていた雪菜の友達であろう。


「はじめまして、前田美穂といいます」

店内で飲物を注文した後、前田美穂と名乗った女は、私達が座る席に着いて自己紹介をした。ニコニコした表情から、親しみやすさを感じる女のように見えた。自己紹介を簡単にすませた健吾は、さっそく本題に入った。


「あの、佐伯さんから聞いていると思いますが」

そう前置きをした健吾に、前田美穂は少し姿勢を正しながら耳を傾けはじめた。


「行方不明になった三村綾女さんと最後に会っていたのが前田さんだと聞いていますが?」

「はい、あの日綾女とサークルの飲み会に出てたんです」

健吾の質問に対して前田美穂は、三村綾女が姿を消した経緯を話しはじめた。


「その帰りの電車で、知らない駅に電車が止まって綾女だけ降りたんです」

そう言った前田美穂は、テーブルの上で組んでいた手に力を入れた。この行動は、三村綾女を行方不明にさせた後悔からだろうか。


「その時、前田さんは一緒に降りなかったの?」

健吾が優しい口調で尋ねる。


「なんか様子がおかしかったので、怖くなってしまって」

「三村さんは、どうしてその駅で降りたのかな?」

二人のやり取りを、雪菜は黙って聞いている。思うところがあるのかもしれない。


「わかりません。ただ、なんか夢遊病にかかっているみたいにフラフラしてて」

健吾が視線で話の続きを促す。


「私も止めようとしたんですけど、すぐに電車のドアが閉まってしまって」

「そうなんだ」

健吾は軽く相槌をうった後尋ねた。


「その駅って、きさらぎ駅だったんだよね?」

「あの都市伝説とかに出てくる駅ですよね?すいません、あの時は駅名まで見てなかったので」

前田美穂は、申し訳なさそうに健吾の質問に答えた。


「ただ、都内なのに田舎にあるような、まるで無人駅みたいだったと思います」

「無人駅?きさらぎ駅の描写通りではあるね」

そう答えた健吾の言葉に、前田美穂は無言で頷いた。


「いつも使う路線なんですが、今まであんな駅を見た事ないですし、止まった事もなかったんです」

「あの日は、その駅に止まった?」

また、前田美穂は無言で頷いた。


「何か普段と違った行動とかや、違った事とかはなかった?」

「わかりません、ただ初めてこの駅から終電に乗りました」

前田美穂は、健吾の問に申し訳なさそうに答える。たいして手掛かりとなる内容を提供できていないためであろう。


「終電に乗った事以外は変わった事はなかったって事かな?」

「はい」

健吾の質問に、前田美穂は力なく答えた。


その後も、前田美穂と話を続けたが、これといって手掛かりとなる情報は得られなかった。あの日、前田美穂と三村綾女は、サークルの飲み会の帰りに終電で帰宅しようとした。


そして、その途中にきさらぎ駅らしき無人駅に電車が到着して、三村綾女だけが降りたという事だった。その時、二人以外は同じ車両には乗っていなかったという。


結局、前田美穂からは有力と言える情報は得られなかったと言える。終電に乗るだけで、毎回きさらぎ駅に行くのであれば、行方不明者だらけになっているだろうからだ。終電に乗る以外に、きさらぎ駅が現れるための何かが必要なのかもしれない。


「あの、まだ誰にも言ってない事があるのですが」

カフェで一通りの話を聞き終わった後、前田美穂は私達と別れる時に、そう話を切り出して言った。


「綾女が行方不明になった時の事を、他にも聞いてきた人がいて…」

私達は顔を見合わせた。


「それって誰かわかる?」

健吾が前田美穂の話の続きを促す。


「同じサークルの戸山正広さんです」

もう一人の行方不明者の名前を、私達は思いがけずに聞く事となった。






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