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〜猫とバラバラ殺人~ACT2

「どうだった?」と、公園のしげみから這い出てきた私に、男は声をかけた。男の名前は、大貫健吾という。私の相棒だ。いや、下僕のようなものだ。唯一、私の声を聞きとる事ができる人間だ。


「今までの事件と同じだな」

私は、そう答えながら、体についた枯れ葉のくずを払い落とし、軽く体を舐めた。毛繕いをしながら、健吾の方を見る。身長はやや高めだが、目立つほどではない。


体は案外がっしりしているが、服の上からでは、一目では良くわからない。ややなで肩だと言えるかもしれない。短く刈り込まれた頭は、この時期では寒そうだ。まあ、見た目を簡単に言うなら、あんまり特徴のない男だという事だ。


そんな事を再確認しながら、私は事件の事を考えていた。この事件の被害者は、すべて若い女だった。体をバラバラにされている。どの事件も、今日死体が発見された場所から近い場所だ。今回は、公園のブランコの近くの藪に放置されていた。



「やっぱりか」

そう健吾がつぶやく。前回までの事件と同じだと予想していたのだろう。なっとくした感じだった。


「これからどうする?」

「女達の共通点を探すしかないな」

私は、健吾の右肩に飛び乗りながら答えた。私のお気に入りの場所の一つが、この右肩だ。右肩に腹を乗せて、前足を胸の前にたらし、後ろ足を背中側にたらすようにして、引っかかった状態が、一番いい状態だ。健吾は、少しなで肩なので、私はやや傾いた状態となる。


「得意の予知とかを使って、次に犯人が来る場所は特定できないのか?」

健吾が言う。


「何度も言ったが、予知など使えん」

私は、少し面倒くさそうに答えた。


「私のは、カンのようなものだ」

そう言いながら、健吾が着ているハーフコートのフードの位置を、お腹でズラして、ベストポジションを作り出す。


「今回のも、アレが関わっているんだろう」

健吾は、私を右肩に乗せたまま、公園の横を通る道を歩き出した。私の左にある健吾の頭の向こうには、死体が発見された公園がある。反対の右側には、人間達が住む家が並んでいる。住宅街とか呼ぶのだったか。


「ああ、関わっているな」

私は、健吾が歩く揺れに合わせて、右肩と自分のお腹の位置をズラしながら答えた。


「なら、そいつの痕跡を追えないのか?」

健吾は、右手で私の背中を支えるように添えながら聞いてきた。


「難しいな、後を追えるほどのものは感じられなかった」

「地道に聞き込みでもするしかないかな」

私達が、この事件に関わりだしたのは昨日からだ。一昨日、健吾が働いている店の店員の女から相談を受けたらしい。


健吾は、三十一歳になるが、まともに就職をしていない。人間の世界では、フリーターというらしい。今もコンビニでバイトをしている。


健吾いわく、「こんな事を毎回やってたら、まともに働けないさ」だそうだ。こんな事とは、今回の事件のような事だ。まあ、こっちの方でも、お礼として収入があるわけだから文句も言えない。


何度となく、こんな事をしているうちに、いつの間にか、私達は探偵みたいになっている。と、言っても、まともな探偵ではないが。


今回の、バイト先の女からの頼みというのが、このバラバラ殺人に関係のあるものだった。なんでも、二件目の被害者とは友達だったらしい。そして、被害者と最後に会っていたのが、その女なのだそうだ。


刑事からも事情聴取を受けたらしいが、女の話しから犯人に繋がるものはない。そんな感じで調べだしてすぐ、三人目の被害者が出たとテレビで報道があって、現場まで来てみたのだ。収穫はゼロだったが。


「とりあえず、明日は、二人目の被害者が、佐伯さんと最後に別れた渋谷の駅前に行ってみるか」

佐伯というのは、バイト先の女の名前だろう。確か、大学生だと言っていた。被害者も同じ大学に通っているらしい。


「あの女・・・」

私は、遠くに見える女を見てつぶやいた。と、言っても、健吾以外には猫の鳴き声にしか聞こえていないだろうが。


こんな感じだから、健吾はたまに変人扱いされるらしい。まあ、人前で猫とまともに話しているんだから仕方がない。


「どうかしたのか?どの人だ?」

私達が歩く道の先に集まっているマスコミや、野次馬を見て健吾は尋ねた。


「あの黒いスーツの女だ」

と、私は答えた。視線の先には、細い体にフィットした黒いスーツを着た女が、公園の中を覗いていた。右手首にはカメラをさげて、手帳を開いて持っている。たぶんマスコミ関係の人間だろう。


肩にふれるかふれないかぐらいに、切りそろえられた髪を、左手で耳にかけるようにしながら、公園内を覗き込もうとしていた。どうやら、警察関係者以外は、ここから先は入れないらしい。


「記者さんかな。あの人がどうかしたのか?」

「あの女に近づけ」

私は、健吾の問いに答えず、そう言った。


「やっぱりな」

私は、数メートルと、黒いスーツの女に近づいた健吾の右肩の上でつぶやいた。黒いスーツの女は、私の声に気付いて振り返った。と、言っても猫の鳴き声にだろうが。私達を見て不思議そうな視線を見せている。


無理もない。夜中に、肩に猫を乗せた男が立っているのだから。黒いスーツの女は、すぐに興味をなくしたのか、また公園内を覗きこんだ。


「犯人なのか」

重吾は、少し女から離れた場所に移動してから尋ねてきた。


「いや、犯人じゃない」

「じゃあ、あの人がどうしたんだ」

私は、少しもったいぶりながら答えた。


「おまえが、さっき言っていた予知というやつだ」

「はあ?」

意味がわからないのか、健吾はつぶやいた。もっとも、予知とは言ったが、本当のところは、カンのようなものだ。まあ、猫だけに野生のカンというやつかもしれない。しかし、このカンが外れた事は一度もない。だから、健吾は予知だというのかもしれない。


今回も予感を感じる。この黒いスーツの女が、事件を解決する重要な人物だという事を。黒いスーツの女は、チラチラ現場の方を見ながら、場所を移動しようとしていた。現場が見える所を探しているのだろう。


「あの女のあとを追え」

私は、まだちゃんと理解していない健吾に言った。こんな時、健吾は私の言った通りにする。私のカンを当てにしているのだろう。


「わかった」

ちょっと不満そうに健吾が答える。しぶしぶ従う感じがいつも通りだ。暗闇の公園を女を追う男。前にテレビで言っていたストーカーそのものだな。私は、そんな事を考えながら、今回の事件を含めた三件の事件の内容を、もう一度思い出していた。


昨日までは、私達にとって、何気なくテレビのニュースで報道される事件の一つでしかなかった。そのため、詳しい情報を知らない健吾は、昨日一日かけて、ネットや新聞を使って調べたようだ。久しぶりに図書館にも行っていた。私は図書館まではついて行っていないが。


そして、私達は今日の昼間には、前の二件の現場にも行ってみた。私は、健吾の右肩で揺れながら、この二日間を思い出していた。健吾は、私の事は気にもとめず、黒いスーツの女を追っていた。私は、女を遠くに見つめながら、この事件はすぐに解決すると、確信していた。



夜中の一時をまわっていた。黒いスーツの女を追っていた私達は、女が、オフィスビルに入っていったの遠目で確認していた。ビルを見ると、それなりに名前を知られている週刊誌の出版社が入っていた。やはり雑誌の記者らしい。


運が良いことに、女は徒歩でビルまで戻った。三件目の事件現場が、このビルから近かったからだろう。電車や車を使われていたら、厄介だった。私を連れて電車やタクシーに乗ることは、難しいからだ。


まあ、そういったことは、今まで何度もあったが。いつも私は、健吾の服にくるまれたり、コートの内側にへばりついて、凌ぐのだ。仮に、尾行している対象者と距離ができたとしても、私が一緒であれば見失う事はない。健吾もそれを理解しているのか、尾行しているという緊張感はない。


実際、健吾一人での尾行では、すぐに見つかっているか、見失っているだろう。私ならば、見失ったとしても、見つけることが出来る。これが私達猫と、人間の差だろう。


「どうする?」

ビルの中に入っていった女を確認して、健吾が私に尋ねてきた。


「そうだな、あの女の仕事先も確認できたし、今日は退散するか」

私が答える。

「いいのか?」

健吾は、ダルそうに聞いてきた。


「大丈夫だ。すぐに顔をあわせる事になる」

そう答えた私には、確信があった。まあ、猫のカンだ。


「いつもの予知だな」

そう返す健吾に

「予知ではない」という、いつものやりとりをしながら、私達は撤収する事にした。




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