〜猫とバラバラ殺人~ACT1
けたたましいサイレンの音が鳴っている。周りは、騒然としている。黒い服を着た人間達が、周りを歩きまわり、イライラしながら叫びあっている。スーツ姿もいれば、制服を着ているものもいる。
刑事とか警察官とか言われる連中だ。私は、その光景を草陰から観察している。もう少し、遠い場所からでも観察する事は出来るが、直接この目で見たいという衝動にかられたのだ。
それは、ただならぬ悪意を感じたからかもしれない。私は、刑事達の横を通り抜け、目的地に向かった。
私は、ここでは部外者だが、気にするものはいない。というより、気付くものがいないだけだろう。というのも、私は、猫だからだ。と、言っても、ただの猫ではない。
人間達がよくいう、化け猫と呼ぶやつだ。正確には、猫又とか呼ぶのだったか。まあ、どうでもいい話しだ。とにかく、私は、そこら辺にいる猫とは違うという事だ。
名前は、源之助。私と組んでいる男が、そう呼ぶようになった。気にいっているわけではないが、悪くない呼び名だ。
刑事達は、一向に私に気付かない。日が暮れて、辺りが暗いからだろう。私の体は、黒い毛で覆われている。鼻先から、やや長めの尻尾の先までだ。
たまに仲間の中には、毛が長くモサモサしたやつがいるが、私の毛並みは、無駄に長く伸びたりしていない。体も細く、人間風に言うなら、スポーティーな体だと言える。黒い毛が更に、私を細く見せているのかもしれない。
この暗い中では、全身が黒い私は目立たない。いや、正確に言うならば、右の前足の先だけは、白くなっている。私は、右前足が目立たないように歩きながら、刑事が集まる場所に近づいて行った。
その時、遠くの方で、白く光るのが見えた。人間達が使うカメラとかいう物だ。たぶん、マスコミとかいう連中が集まり始めたのだろう。まあ、無理もない。バラバラ死体が発見されたのだから。それも、今回で三件目だ。
人間の社会にうとい私でも、知っている事件だ。私は、遠くの白い光りを横目で見ながら、青いシートで囲われた場所に忍び込む。テレビという板の中の人間が言っていた通り、バラバラの死体が転がっているはずだ。
確か、テレビでは、どの死体も、胴体部の一部と、脚部が発見されていないと言っていた。たぶん、今回の死体も同じようなものだろうと思う。今までの死体と同じく、女の死体だろうか。
そんな事を考えながら、刑事が集まっている所に静かに近づいて行った。
「どうだ」
近くで、しわがれた声がした。私は、あわてて、草の中に顔を突っ込むように、頭をさげた。
「また、前回と同じ状態ですね」
さっきの声に、やや若い声が答える。どうやら、遅れて現れた中年の刑事に、若い刑事が報告しているらしい。私は、二人に気付かれないように、息を潜めながら、二人の話に耳を傾ける。
「今回も被害者は、若い女性。手足をバラバラに切断されています。」
「そうか」
中年の刑事は、若い刑事の報告に、短く答えた。
「まだ、鑑識が調べてる最中ですが、胴体部の一部と、大腿部の一部が欠損しているようです」
「また、同じってわけだな」
「はい、これで、同一の犯行が三件目になります」
そう、最初の事件は、一ヶ月くらい前に起こった。年が明けて、生活から年末年始の雰囲気が消え始めた、一月の末である。今回同様、都内の公園で死体が発見された。その公園には、有名な池があった。その近くのしげみで、バラバラの状態で発見されたらしい。
発見された時は、バラバラになった各パーツを、ゴミ袋に包んだ状態だった。二件目は、その二週間後の事だ。こちらも、前回とは違う場所だが、一件目の場所に近い、都内の公園内に隣接した体育館の横のしげみに捨てられていた。
この二件目の被害者が、私が一緒にこの事件を追っている男の、仕事先の女の友達なのだそうだ。そして、今日発見された三件目の事件だ。
これら三件の事件に共通する事は、被害者が全員若い女性だという事。死体がバラバラにされている事。バラバラにされた死体が、ゴミ袋に入れられて、放置されている事。死体発見が、死亡推定時刻から、一日から二日程度離れている事。そして、胴体の一部と脚部の一部が欠損しているところだ。
テレビなどの報道では、死体の切り口などから、同一の犯人である可能性が高いという事だった。また、三件の死体が発見された場所も、同じ区内と比較的近い場所である。
男と組み始めて、こんな事件を何度か経験したが、私には、同族を殺すという行為が理解出来ない。たとえアレが関わっていたとしてもだ。私達、猫には存在しない概念だといえる。もしかしたら、人間だけの行動なのかもしれない。
「人間の社会は複雑なんだよ」
前に、そんな話しをした時、男はそんな事を言っていた。いまだに、理解出来ない。もし、男が調べ始めなければ、そして、アレが関わってなければ、私は今回の事件に興味を持たなかっただろう。