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〜猫とお化けトンネル~ACT1

「大貫さん、こっちの機材を運んでもらえますか」

大貫健吾にそう言って指示を出している女は、今回のテレビ番組のロケを担当するスタッフである。


大貫健吾という男は、猫である私の事を源之助と呼ぶ。私の下僕のような存在だ。私の言っている事を聞き取れる人間は、この男だけなので組んでやっている。


私達には共通する目的があるからでもある。今回、健吾はテレビ番組のロケスタッフの短期バイトをしている。


この番組は、アイドルとか言う歌やダンスをする女達の番組らしい。今、健吾に声をかけた女は、さっき秋山佳奈美と名乗っていた。


少し舌足らずな話し方をするが、見た目は裏方のスタッフというより、芸能人と言っても遜色のないと言えた。


長い黒髪を後ろで束ねて作業をしている。今、私は健吾のカバンの中に身を潜めて、周りを観察している。


「猫が仕事場でウロウロしてたら、追い出されるだろう」

健吾がそう言うので、私は仕方なく他のスタッフに見つからないように、カバンの中でじっとしているのだ。


「そっちの機材は、車に積んで下さい」

佳奈美の指示に従い、健吾や他のスタッフは、テキパキと作業をしている。このロケというのは、芸能人がスタジオの外で、テレビの撮影をする事なのだそうだ。


今回のロケでは、2台のワゴン車に分かれて乗車して、目的地に移動する予定である。ワゴン車の一つは、アイドルの控室もかねた移動用で、もう一台はスタッフと機材運搬のためである。


私達は、この機材運搬用のワゴン車に乗って、現地に移動する。今回ロケをする場所は、少し奥まった山の中腹であった。


機材の積み込みをしている、この制作会社から途中、演者である数人のアイドルを乗せて現地に移動する。スタッフの話しでは、2時間程で到着するそうである。


現在の時刻は夜の5時前なので、到着は夜の7時頃になるだろう。つまり、夜のロケだという事である。


今回は、お化けトンネルと呼ばれる心霊スポットに、数人のアイドルが潜入するロケだという。怖がる若い女を見て、何が面白いのかは、猫である私にはわからないところだ。


ただ、私達が心霊スポットに行くという事は、何かあるのだろう。こういう場合、偶然

で私達が関わる事は少ない。





「大貫さん、ちょっとご相談があるんですけど大丈夫ですか?」

そう声をかけてきたのは佐伯雪菜である。健吾がバイトしているコンビニで、一緒に働く同僚である。


ある日、バイトが終わって帰る時に雪菜が話しかけてきた。この雪菜という女は、少し、イヤ、大分天然なところのある女である。猫である私が呆れる事があるのだから、相当だろう。


最近の健吾と雪菜は、土日の昼間のシフトで一緒に入る事が多かった。お互い徒歩での通勤で、同じ方向に帰るので、途中まで一緒に帰るのが通例となっていた。


この時、私も合流する事が多いため、二人と一匹で帰るのだ。私が、この二人に合流する理由は、雪菜が私のためにオヤツを用意しているからである。この時も、雪菜に抱かれながらオヤツを食べている時に話しはじめたのである。


「あの、私の従兄弟がテレビ番組の制作会社に就職したんですけど、ちょっとおかしな事がおきてるみたいなんです」

そう話し始めた雪菜は、申し訳なさそうに、それでいて期待した目で健吾を見ていた。


要約するならば、近々アイドル番組の心霊企画のロケがあるらしい。その担当のスタッフが、原因不明の病気やケガなどにみまわれ、人手が足りないという事なのだ。


「私の従兄弟のお兄さんも、ケガをして自宅療養中なんです」

雪菜が補足説明をする。という訳で健吾と私は、人手が足りなくなったロケスタッフの短期バイトとして加わっている。


もちろん、ついでに原因を調べる事も依頼された。どうも、この雪菜という女は、私達ならなんでも解決できると考えている節がある。


このような事を時々相談しにくるのだ。まあ、普段の相談は、もっとどうでもいい事であるが。これには、前にバラバラ殺人(猫の悪霊退治〜猫とバラバラ殺人~を参照)の調査をした時の事が関係している。


その時も、この女の相談から始まった。その時に、上手く解決してしまったのが、印象に残っているのだろう。まあ、今回もそれなりの謝礼があるそうなので、悪くはない。これで、私の好きなオヤツが買えるからだ。


健吾が言うには、どうもこの女の親は金持ちらしい。だからか、娘と同じで、おおらかなところがあるのだろう、というような事を健吾が言っていた。


まあ、私から見ると、親子でド天然なだけである。そうでなければ、健吾のような正規の探偵でもない、よくわからない男に依頼料を払うわけがない。


まあ、自分の身内がケガをしたのであれば、心配して何かをしようとする気持ちもわからなくはないが。そんな事を私が考えていると


「じゃあ、そろそろ出発します」

と、声がかかった。佳奈美が、今回のロケスタッフ全員に声をかけたのだ。どうやら、この女が今回のロケを取り仕切るらしい。


車に揺られながら、私達は現場へと向かう。現地では「お化けトンネル」と呼ばれている場所に。





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