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〜猫とバラバラ殺人~独白

大久保公園で、たちんぼをはじめてから、私はサヤカという名前を使いはじめた。場所が渋谷に移っても、この名前を使い続けている。私は、こんな方法でしか、お金を稼ぐ事ができないのだと思う。


今までも、私は夜の仕事をしてきた。それ以外の仕事も何度か試したが、長続きしなかった。そもそも、学歴のない私ができる仕事は限られていた。


私は、本当は大学に進学したかったが、父親がそれを許してくれなかった。父親は、昔から私につめたかった。いつ頃からだろうか、父が私につめたくなったのは。たしか、小学生の高学年くらいまでは、父は優しい人であったと思う。私の記憶では、どこにでもいる普通の父親であったと思う。


ある時から、父は母や私につめたく当たるようになった。そして、暴力をふるう事も増えていった。子供であった私だが、その原因が母の浮気だったのではないかと、なんとなく気付いていた。


もしかしたら、父は私が自分の子ではないと、疑っていたのかもしれない。はじめは、父の暴力に対して私をかばってくれていた母も、見て見ぬふりをするようになり、私が高校に入学してしばらくして、私をおいて家を出ていってしまった。


私は、高校を卒業してすぐに就職したが、父が私の収入をあてにするようになり、生活費を使い込むようになった。私は父から逃げるように一人くらしをはじめたが、私にできる仕事は夜の仕事だけであった。


そんな時、私に恋人ができた。彼はホストをしていたが、私を愛してくれていた。いや、当時は私を愛してくれているのだと思い込んでいただけだった。ほどなくして、彼は私に借金を押し付け、姿を消した。


その頃の私の心は疲れ果てていた。私は、なけなしのお金を使い、海外に旅行に行った。今の現状から逃げ出したかったのだと思う。旅行先は東南アジアにした。別に行きたかった訳ではない。なんとなく目に止まっただけでしかない。


現地で、戦争の後を見学するツアーがあった。別に興味はなかったが、なんとなく参加してみた。当時、この場所で、多くの日本人が戦死したとガイドが説明していた。本国の日本からの援軍や補給もなく、餓死や病死をした人間が多かったようだ。


私には、彼等が日本という国から捨てられたように感じた。なんとなく、私と同じような境遇に感じたのは、母や恋人から捨てられ、社会からも認められていないと、私自身が感じていたからかもしれない。


日本に帰ってきた私は、変わらず渋谷で、たちんぼをしていた。そんな時に、私がいつも立っている場所で揉め事が起きた。たいした揉め事ではなく、一人の女の子が客と揉めただけであった。


いつもは、かかわり合いにならないようにするのだが、なぜかその時は仲裁に入った。その結果、私はこの場所で一目置かれるようになった。そして、助けた女の子とも仲良くなる事ができた。はじめて、心を許せる人ができたと、その時の私は感じていた。


たぶん、私達の生い立ちと境遇が似ていたからかもしれない。私と彼女は、本当に仲が良かったと思う。ほとんど一日中、私達は一緒にいた。私は、彼女の存在に救われていたのだと思う。


でも、そんな日々は、長くは続かなかった。彼女が、たちんぼを辞めて、普通の生活をすると言い出したからだ。私は、彼女から捨てられたように感じた。また、私は捨てられるのだと思うと、悲しかった、苦しかった、怖かった。そう思ったとき、私は彼女の首に手をかけていた。


我にかえった時には、彼女は冷たくなっていた。私は、その時、冷静であった。彼女の遺体の処理について考えていた。私は、遺体をバラバラにして処理する方法を選んだ。ただ、全てを捨てる事はできなかった。彼女と離れたくないと思ったのだ。そうして、彼女の遺体の一部を残した。そして、食べた。


そうしたのは、彼女とずっと一緒にいれるような気がしたからだ。そして、私はまた、私の心を癒してくれる人を探した。その後、二人の女性と仲良くなったが、長くは続かなかった。でも、彼女達は、今も私の中で一緒にいる。


やっぱり、寂しさはあるが、まえ程ではなかった。そんな風に思いはじめた時に、私の前に二人は現れた。猫を連れた男と、ライターの女性であった。何故か、私は彼等が私を救ってくれるような気がした。


だから、ライターの女性と二人で会う事にした。でも、彼女は事件を調べているだけで、私を癒してはくれなかった。私は無性に腹が立った。そして、我を忘れて彼女に襲いかかていた。そんな私に、一匹の猫が飛びついてきた。その猫の目は、私の全てを見透かしているようだった。




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