離れたくない
温泉旅館から帰り、芽依の家に送る前に栄養のある食材を二人で仲良く購入して帰宅した。
「ふぅ、疲れたけどめっちゃ楽しかったね」
荷物を置いて芽依がちょっとお疲れ顔で笑った。
「そうだね。」
オレも笑顔でこたえた。
…
また行こう。
その言葉がオレにはどうしても言えなかった。
また…
また今度って軽い気持ちで言ってはいけない気がした。
「芽依、今日はゆっくり旅の疲れとるためにオレが健康食用意して帰るからね」
すると芽依が立ち上がって
「えっ、いいよ〜。さとるだって疲れてるんだから。わたし料理くらいできるようになってきたし、それに少しずつ自分でできるようになりたいんだ」
ってオレに気を遣って言ってくれたみたいだ。
でも、心配だなぁ。
「あーっ、今芽依にできるの〜?って顔したー」
なんて少しむくれた芽依。
「え、そんなこと思ってないよ。ただ…オレはなんだかんだで理由をつけて、芽依と一緒にいたいだけなのかもな」
なんて、思わずそんなことを言ってしまっていた。
でも、ほんとにできれば芽依のそばにいたいっていうのは、本音だ。
「えっ、なら一緒に住んじゃう⁉︎あーでも、わたしの部屋狭いもんね」
「なら、芽依がオレの部屋に引っ越してくればよくない?」
思わず発していたいきなりの同棲話。
「えっ、いいの⁉︎本気なら押しかけちゃうぞ〜」
冗談っぽく、芽依が旅行バッグを持ち上げた。
「芽依が負担に感じないなら、オレ…ほんとに芽依と一緒に住みたい。」
真剣なオレの顔をみて芽依は、
「マジですか?てか、昨日両思いってわかってからの展開早くない⁉︎嬉しいけど」
と、芽依はちょっと恥ずかしそうにしていたけど、嬉しそうでもあった。
自分も口走っておいて、びっくりしている。
だって、旅行からの同棲だもんなぁ。
でも、これで少し安心できる。
家に帰ると、芽依が心配でたまらなかったから。
これからは、もう携帯と睨めっこしなくて済む。
芽依が苦しんでいるんじゃないかって心配で心配でたまらなかったんだから。
「これから一緒によろしくね。芽依」
「うん、こちらこそ宜しくお願いします」
二人で顔を見合わせてにっこりしあった。
そしてよろしくの挨拶のあと、よろしくのキスをしたのでありました。
そんなこんなで数日後、芽依はすぐさまオレの部屋へと引っ越しをしてきたのであります。
オレのアパートだと、芽依の会社から少しだけ遠くなってしまうのだけれど、芽依は以前と違って運動も得意になってきたくらい、身軽になったからそのくらい全然平気だよ〜と笑って返してくれた。
芽依が引っ越してきて、変わったことといえば、台所にタッパーが増えたことかな。
小腹が減ったら、いつでも栄養があるものをチンすれば食べられるものばかり常備しているからな。
なんなら、最近は芽依も料理が上手くなってきたので、それぞれ冷蔵庫にはっつけて置いてあるミニシールを、タッパーに貼って日にちの管理もお互いバッチリにしている。
だから、最近ではほんとに冷蔵庫を開けるのが楽しみでしかたないんだ。
あと、もう一つオレの部屋がガラリと変わったところといえば、寝室だ。
芽依の部屋をきちんと用意しておいたのだけれど、芽依がどうしてもオレと一緒がいい、とごねるので、一緒の部屋で一緒の布団に寝ることとなりました。
いつも一緒じゃ芽依の心の負担にならないかって思っていたのだけれど、腕枕してもらうのがなによりものご褒美になるそうだ。
一日の最後にご褒美があるのは、めっちゃ幸せって嬉しそうにする芽依がなんとも可愛らしい。
むしろオレにとってもご褒美でしかないのであります。
同棲って最高です!
そして芽依は、余命一ヶ月をきりましたがとても元気です。
続く。