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パカラッ、パカラッ
嵐の吹く中、4頭立ての立派な馬車が走り抜けていく。物凄いスピードだ。
そしてその後をびしょびしょに濡れながら人影が追走している。
「お嬢様、帰りましょう!今ならまだ間に合います!伯爵様が帰られる前に!!」
人影のうちの一人が馬車に向かって叫んだ。
轟々と吹く風と雨は止む気配がない
「嫌よ、今日!今日だけなんだから!私はずっとこの日を待ってたのよ?!今日こそ、素晴らしい魔獣を捕まえるわ!」
肩を震わせながら馬車から少女が叫ぶ。
と、同時に馬車は更に速度を上げた。
「お嬢様、気持ちは分かりますが、そんなこと!!あんな野蛮な所へ行かせられません!!行かなくても、、!私が話を通しますから!!」
「お待ちください!...お嬢様っー!!!!」
パカラッパカラッパカラッパカラッ
馬車は森の奥深くへと消えて行った。
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笛の音が鳴り響き、さざ波と磯の匂いのする白い砂浜から広場まで辺り一体屋台がひしめき合っている。
客寄せの声が止むことはなく、祭りの衣装を着た若者や家族連れの楽しそうな笑い声が響く。
波止場には沢山の大きな船が泊まり、客足は途絶えることを知らない。
今日は下町の子供も酒場の亭主も隣国の貴族も誰もが待ちわび、心踊る気持ちになる不思議な日、赤い月の満月。暁月祭だ。
そんな心踊る人々をよそ目に、波止場の小さな船の中で影達が蠢く蠢
冷たい鉄の床、ジャラジャラと重い黒い鎖、檻から覗くギラギラ輝く瞳ーーーーー