第7話
「海……か」
カリーヌの村を後にして数日後。
アダンは道から外れ海岸線を歩いていた。
砂浜に足跡をつけながら歩くのは、彼にとっては久々のこと。
気分が良くなり足取りも軽い。
「今日はあの町で休むか」
彼が進む先には、港とそれなりの町が見えている。
どうやら今日の宿は決まったようだ。
「はいよ。素泊まりでいいんだな?」
「ありがとうございます」
町に着くとそこは思った以上に活気に満ちていた。
水揚げされた大振りの魚が売られ、家族連れの人間が沢山いる。
宿は一軒のみだったが部屋は空いていて何とか泊まれそうだ。
「飯はまあ……そこらで魚でも買ってきな。調理位はしてやる。ゆっくりしていくといい」
「ええ、それじゃ」
宿を確保した後は適当に町をぶらついた。
いろいろな店が立ち並んでいる、軽食屋に指輪や首飾りなどの宝飾品を売っている店、娼館……どこも繁盛しているようだ。
少なくとも退屈することは無いだろう。
「いい町だな……」
ひとしきり遊びつくした後、アダンは波止場で黄昏ていた。
吹いてくる潮風を目を閉じて顔で受けていると……
(なんだ?生臭い……)
強烈な生臭さに恐る恐る目を開けると、そこには異様な物体が立っていた。
「え?海藻大魔神?」
「なんだよそれ!?」
驚いたことに声を上げた。
彼の正体は海藻を体中にくっつけた黒褐色の肌を持つ男……
生臭さの元もそれだ。
「こんなところで何黄昏てるんだお前」
「こんなところで何海藻まみれになってるんだお前」
一人でヌルヌルの海藻を悪戦苦闘しながら引っぺがしているのでアダンも手伝ってやる。
「俺は旅してるんだ。一人でな」
「おお奇遇だな俺もだよ!船に乗っていろんな場所行ってるんだ。見てみろよあれが俺の船だ」
彼は波止場に止まっている一人乗りと思われるぼろぼろの船を指さして嬉しそうに言った。
帆は破れかぶれ、いくつか穴も開いていて船の側面には蛎殻や藤壺が大量に付いている。
幽霊船にしか見えない。
「……やっぱり海藻大魔神」
「だからなんだよそれ!?船持ってるから羨ましくてひがんでるのか?いい船だろアレ!」
手を広げて自慢する彼。
彼がそう言うのを待っていたかのように、まるで示し合わせたように彼の目の前で帆が根元から折れ、船も海に沈んだ。
「……あ、ああ」
「……いい船だったな」
間抜けな顔をして肩を落とす彼を見てアダンは不憫に不憫に思いつつも盛大に笑った。
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