第3話
「おどろいた。強いんだねあんた」
「まあな。どう?惚れた?」
滅茶苦茶になった家を片付けながらカリーヌはにこにこと機嫌良さそうにそう言ってきた。
暴漢相手に怒りをむき出しにしていた先程とは別人のようだ。
「傷が治ったらね」
彼女は傷口を笑顔で小突いてきて、アダンは思わず顔をしかめた。
「おー痛……ところでカリーヌ。あいつらはいつも来てるのか?」
痛む肩を押さえながらそう言うとカリーヌの表情が一気に曇る。
「……うん、こうして暴力を振るおうとしてきたのは初めてだけど」
「言いにくいが、明け渡したらどうだ?」
アダンがそう言うと、彼女は顔を真っ赤にして怒り出した。
「出来るわけないでしょう!?お父さんとお母さんが残してくれた大事な牧場なのよ!?」
「わ、分かった。すまん」
彼女に対して言うにはあまりに無神経……失言だった。
「だが少なくとも暫くは近くの村にでも離れたほうがいい。危険だ。俺も次は防げるか分からない」
「……そうね」
荒らされた部屋を一瞥すると、カリーヌは身支度を始めた。
「で、この先の村にその……ディアス?だったかそいつがいるんだな?」
「ディアーヌだってば。私の親友。あんたの目指す場所もそこでしょう?」
アダンと交代しながら一晩を過ごし、翌朝身支度を整えたカリーヌはすぐさま馬小屋にとめていた馬に跨り、アダンはその馬を引いていく。
目標の村はアダンが目指していた場所と同じな為、護衛もかねて一緒に向かうことにした。
「で、あんたは私を村まで守ってくれるの?」
「ああ、少なくとも今の俺はカリーヌの騎士だ。しっかり守ってやるとも」
「そう、じゃあよろしくね。私の騎士様」
「ええお任せください。お嬢様」
お互い少し照れ臭かった。
目的の村まで来ると、アダンはカリーヌに案内されながら一軒の酒場に向かった。
彼女の話では親友のディアーヌはそこで看板娘として働いているようだ。
「カリーヌ!!大丈夫なの!?」
「だ、大丈夫だってば」
酒場につくなり栗色の髪の少女が彼女に向かって駆け寄ってきた。
琥珀色の瞳にうっすら涙を浮かべながらがくがくとカリーヌの肩を揺らし、無事を確かめている。
「あんたがディアーヌか?出来れば暫く彼女を匿ってやってくれないか?」
「あんた誰?あいつらの仲間?」
警戒心をむき出しにしてディアーヌは自分の背後にカリーヌを匿いながらそう言った。
彼女の言うあいつらとは……恐らく牧場を襲った暴漢達のことだろう。
「違う。俺は……あー、騎士だ。カリーヌの」
「嘘」
「ディアーヌ、この人が私を助けてくれたの。まあ騎士は嘘だけどね」
「そうなんだ……ごめんなさい疑って」
「いいさ」
(素直な娘だな)
こうして二人はディアーヌの元で暫く厄介になることに。
カリーヌの方は何度か酒場を手伝ったことがあるらしく店長とも関係は良好、酒場での雑用や客の相手をてきぱきこなしていた。
何事もなく数日が過ぎたある日。
「アダン!!カリーヌを見なかった!?」
血相を変えてアダンの居る宿まで来たディアーヌ。
剣の手入れをしていた彼は慌てたディアーヌを落ち着かせながら話を聞いた。
「お休みをもらったから一緒に出かけようかと思ったら部屋に居なくて……代わりにこれが」
「……これは」
彼女が出したのは一枚の紙。
そこにはたった一言。
『牧場の様子を見てきます』
「あの馬鹿ッ!!馬を貸してくれ!あいつの家を見てくる!!」
「私も行く!」
「危ないからここにいろ!!」
「で、でも……」
「いざって時にお前がいちゃ足手まといだ。それに入れ違いで戻ってくるかもしれない。だからここにいろ」
「…………」
目に涙を貯めながら、彼女は不安そうに頷いた。
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