第2話
「この傷……何かで突かれたの?」
アダンは道で出会った女性に連れられ、近くにあった彼女の家まで来ていた。
彼女の家は牧場も兼ねていて外では羊が呑気に草を食べている。
「槍で突かれたんだ。盗賊狩りに巻き込まれてな……おーいてて」
針と糸を渡して背中の傷を縫ってもらいながら、アダンは少し話をしていた。
こうして助けてくれた彼女の名前はカリーヌというらしい。
たった一人で家の隣にある牧場を経営しているという。
「あんたも盗賊?それとも男爵様の兵士?」
カリーヌは傷を縫いながら背中に多数ある傷に目を奪われていた。
どれも刺し傷や切り傷ばかり、急所にあたる部位にもそれはあり、彼女はアダンの事を怪しんでいるのである。
「いや、俺はただの……うーん……旅人?みたいなもんだ」
「やっぱり怪しいね」
「そんな怪しいやつをよく助けてくれたな」
「怪我してたから」
優しく微笑む彼女を見て思わずアダンも頬が緩む。
「ありがとう。お礼に何か手伝えることがあったら言ってくれ。力になる」
「怪我が治ったらね」
傷口をぺしぺし叩かれ痛みに悶絶する彼を見てけらけら笑うカリーヌ。
「楽しそうにしてるじゃないかカリーヌ」
そんな風に二人共笑っていると突然声をかけてきた人間がいた。
真っ黒い外套に身を包んだ見た目だけは紳士に見える男である。
「……カリーヌのお父さんかな?」
「そんな訳ないでしょう?何しにきたのシャルル。人の家に勝手に上がり込んで」
「前から言ってる件だが……うん?お前どこかで見たことがあるぞ?」
シャルルと呼ばれた男はアダンを見ながらそう言った。
「気のせいさ。俺はあんたなんか知らない」
全く事情の呑み込めないアダンを差し置いて、男は話を続ける。
「……まあいい話を戻そうか。カリーヌ、いつもの話だ。お前の牧場を渡せ。父親も母親も死んで一人じゃ辛いだろう?大人しく渡せ」
「両親が大事にしていた牧場を簡単に渡すわけないでしょう!?あんたらはただ芥子を育てるための畑が欲しいだけじゃない!!」
興奮したカリーヌが叫んだ。
「誰も無償で寄こせとは言ってないんだがな。こうなったら無理矢理になる。お前だけにもう時間をかけられない、残念だが頭もお怒りだからな」
シャルルがそう言うと、その言葉を待っていたとでも言わんばかりに仲間が大挙してきた。
「事情は分からんがただの女性一人に随分と大仰だな」
「関係ない奴は下がってろ。……いや待てお前もカリーヌの説得をしてくれないか?少しぐらいは分け前をやるぞ?」
「残念だがおれはこの美しいお嬢さんにつく。それとお前達みたいなのは信用しないようにしているんだ」
「……そうか」
無表情で残念そうにそう呟くと、その言葉を皮切りに周りの仲間が襲い掛かってきた。
「よっと」
「ガァッ!?」
出てきた暴漢達を躊躇なく椅子で殴りつける。
数が明らかに違うが……
「何だこいつ!?」
「どけ!!邪魔すんな!!」
「お前こそ!!」
(阿保なのかなこいつら)
カリーヌ達が居るのは家の中の一室。
そんな場所に大勢でくればお互いの身体が邪魔になる。
家には棚や机といったものもある。
全く考えずに彼等はアダン目掛け殺到し…
「げほッ」
「せめてもう少し考えて来いよ」
「うるせぇ糞がッ!!」
アダンに悉く殴り倒され、利き腕を折られ、あるいは関節を外されて痛みに悶えていた。
「悪いことは言わないから帰りな」
「糞ッ!!覚えてろ!!」
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