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薬の番人、旅をする  作者: 田上 祐司
牧場主の彼女 編
2/78

第1話 

 「さて、行くか」


 荷造りしている青年がいる。

 彼の腰には鍔と鞘を紐でがんじがらめにした長剣が、くたびれた麻の服に紐が解けた革のブーツ、くしゃくしゃの黒髪……

 彼の名前をアダンと言った。

 総じてだらしないというのがはじめてみた者の印象だろう。


 「おはようアダンさん。……ってなんだい起きてたのかい」


 「ありがとうおばあちゃん。お陰でよく眠れたよ」


 ノックもなしに部屋に入ってきたのはこの家の主の老婆。

 彼はこの家の屋根の補修を行う代わりに一晩だけ泊めてもらっていたのだ。

 古いベッドから革袋を持ち上げ、彼女に笑顔で礼を言う。


 「今度は何処に行くんだい?泊るところがないなら暫くうちにいていいんだよ?部屋はあるし、若い人がいれば畑仕事も楽になって皆喜ぶから」


 「ありがとうおばあちゃん。じゃあね」


 「じゃあね」


 残念そうに呟く老女を尻目にさっさと退散した。

 




 「次は……東か……」


 地図を広げながら、ごつごつの岩だらけの道を歩いていく。

 

 「次の村までだいぶんかかるな。適当な場所でまた野宿か」


 アダンが目的地にしている村まではおよそ2日。

 本人からしてみればいつもの事、背中に背負った革袋の中にも野営用の道具はある。

 まぁなんとかなるだろう。

 そう考えていた時だった。


 「おーいあんた」


 「ん?」


 地図とにらみ合っていると、たまたま通りかかった馬車の御者に呼び止められた。


 「この先の村に行く気か?」

 

 「ああそうだ」


 「やめとくか予定をずらしたろうがいい、盗賊が出たそうだ。今男爵様が討伐隊を連れて行ってる。巻き添え食らうぞ」


 「そいつはおっかないな。ありがとうよ」


 彼の忠告を無視して進むアダン。

 

 「おいおい。死ぬぞ」


 「大丈夫さ」


 結果として、アダンはこの後とても後悔することになる。






 「うわあ……大人しく言う事聞いてればよかった」


 苦い顔をしながらアダンは道端に青々と茂った草むらにうつぶせで隠れて見守っていた。

 見守っている対象は……


 「一人たりとも逃がすな!!我らの領地を荒らす賊は全て狩れ!!」


 「男爵様に栄光あれ!!」


 剣や槍で武装した盗賊団と男爵率いる兵士達が激しく争っていたのだ。

 お互いに血みどろになりながら雄たけびを上げ、あるいは絶叫を響かせながら剣をぶつけあっている。


 「どうするかなあ……」


 「死ねぇえええええええ!!」


 「うおおおッ!?」


 思考を巡らせるアダンの背後から甲高い叫び声が聞こえて振り向くと両手斧を振りかぶった男がいつの間にか立っていた。

 薄汚い麻服から察するに恐らくは盗賊側だろう。

 勢いよく振り下ろされた斧をアダンは転がりながら避け、腰の剣に手をかける。


 「おい待て!俺は男爵の側じゃないぞ!!」


 (たのむ!手を出さないでくれ!)


 「知るか!死にやがれ!!」


 だがアダンの言葉など男は聞く耳持たず。

 構わず地面に刺さった斧を引っこ抜き、彼目掛けてもう一度叩きつける。


 「ああ糞!!」


 アダンは剣を鞘に納めたまま斧を受け止め、顔面に剣の柄を叩き込んで倒して一目散にその場から逃げた。


 「待て!貴様!!」


 「待てと言われて待つか!!」


 盗賊の男とは別に、今度は男爵側の兵士にも目をつけられてしまった。

 そしてアダンに向かって叫びつつ槍を構え…


 「があッ!?」


 槍を投擲され彼の肩に突き刺さる。


 「あばよ!!またいつか会おうぜ!」


 肩から槍を抜き大声で皮肉を言うと精一杯笑顔を浮べつつ走り去った。






 「ああ……痛いな。こりゃ」


 盗賊狩りから逃れたアダンは道端に座り込んだ。

 傷口が熱を持ちながらズキズキと痛む、おまけにしたたり落ちる血が止まらない。

 

 (縫わなきゃだめだな……これは)


 だが問題があった。

 負傷したのは肩でどうあがいても自分で傷口を縫うことができないのである。


 「包帯だけして凌ぐか。次の村まで」


 「どうしたの?大丈夫?」


 「ん?」


 声がする方を見てみると赤毛の女性が立っていた。


 「怪我してるの?手当してあげるから。みせて」


 「ああ、ありがとう」


 どうやら次の村まで行く必要はなさそうだ。

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