過去と近くの闇
中学3年の夏
「陽翔、どこの学校受けるか決めた?」
この質問は、1月や2月にある普通の私立、公立受験についてではない。
秋頃にあるDNA同棲を取り入れた高校の受験についてだ。
DNA同棲を取り入れた学校は8校あるが、専願のみでどの学校も同時期に受験が開催されるため1校しか受けることが出来ない。
故に、中学生3年生はどの学校を受けるかに悩む。
この制度上、家からどれだけ離れていても問題ないのが、余計にどこに行くべきか悩ませる。
「決めきってはいないけど、神楽坂あたりでいいかなとは思ってる。湊は?」
DNA同棲の学校なんてどこも倍率20倍を超えていて、その上学力がそこまで重視されないという話だから、受験はちょっとした宝くじ気分みたいなもんだ。
実際俺も落ちるだろうなとは思っているが、もしかしたらと思ってしまうのが人間というもの、一縷の望みにかけて受験するつもりだ。
「俺、月皇受けようと思うんだけど、陽翔も一緒に受けない?」
手に持っていた月皇のパンフレットを俺に渡してくる。
「月皇って正気か? あそこは他の学校とは別格だぞ」
私立月皇高校はDNA同棲を取り入れている学校の中でも1、2を争うレベルで人気だ。
倍率も毎年50倍を優に超え、去年は10校の中でトップの54倍だったらしい。
倍率が高い理由の1つは、私立だということだろう。
去年まで倍率がずっと1位だった高校も私立であり、国立のところと比べると筆記試験が楽というか、ないに等しい(一応あるが、落とされることはまずないと聞く)。
その他の理由として、立地もあるだろう。
去年まで不動の1位だったところは東京であり、月皇は大阪だ。
「月皇はここからは一番近いけど、何人が受けると思ってんだ。絶対受からないだろ」
それに俺の学力ならぎりぎり国立の学校も受からなくもない。
湊に関しては、余裕だろう。
わざわざ倍率の高い学校を選ぶべきじゃないと思うが。
「違うよ、陽翔。受験者数が多いから月皇を受けるんだよ」
「・・・・・・ごめん、まじで意味が分からん」
一番難しいから受けるって何? こやつ、もしやドM民か!?
「受験者が一番多いってことはさ、より良いパートナーに出会える確率が一番高いってことだろ。それなら、月皇を受けるに決まってるだろ」
そうかもしれないけど、受かる確率下がってたら本末転倒もいいところだけどな。
けど、こいつなら、何でもこなす湊なら倍率がどんだけ高くてもしれっと受かってそう。
さて、俺はどうしようかな。
湊から渡されたパンフレットの頁をペラペラめくる。
『10校の中で一番の実績!!』や『DNA婚活の派生型とも言えるDNA共同生活制度』、『充実した設備や環境!!』など様々な謳い文句が書かれていたが、ある頁で手が止まった。
そこには、先輩・卒業生たちからのメッセージみたいなのが載っていたが、とある卒業生の記事が目にとまる。
『──この学校に来て、彼女と出会い、一緒に暮らしたことは自分の人生の中で間違いなく1,2を争うくらい大きい出来事でしたが、それと同じくらいDNA同棲による私自身の変化は大きいものでした。親元から離れ、親の手助けがなくなった状態で暮らしていかないといけなくなり、今まで親に任せっきりにしていた家事など、必然とやらないといけないことが増えました。それにより、今まで自分がどれほど色んなものに依存していたのか痛感しました。自分自身変わらざるを得なかったので、少しずつ変わっていき、その変化が新たな視点と景色を見せてくれるようになりました。そのおかげで、これまでの自分のダメだったところ、良かったところを明確に知ることが出来、どうなるべきかわかるようになりました。また、──』
何故かと言われたら、『分からない』と答えるしかないが、この文が目にとまった。
これにエンパシーを感じたわけでもなく、俺に何か天啓を与えたわけでもない。
そもそも、他の学校のパンフレットにも似たような内容の卒業生の言葉みたいなページが載っている。
でも、何故かこれから目を離してはいけない気がした。
月皇は勉学をそこまで重視しない受験スタイル。
良く言えば、誰でも受かる可能性があるが、言ってしまえばただの運ゲーで、努力によって合格確率を上げることは、出来ないということだ。
つまり、倍率50は超えてくるであろう月皇の合格できる確率はよくて50分の1で、%で言えば2%前後くらい。
ソシャゲのガチャでも最高レアの確率、大抵は3%以上あるから、かなり渋いと言えよう。
神楽坂にすれば、単純に考えれば合格率5%前後はあり、筆記試験を合格できることを前提にすれば、20%前後はあるだろう。
それでも低いことには変わりないが、月皇に比べれば、遙かに受かる可能性は高い。
特にこだわりがないなら神楽坂に行くべき、そんなのはどんな馬鹿にでも分かることだ。
けど、俺はもう決心していた。
まぁ、そもそも神楽坂が行きたい理由もなかったしな。
湊と同じ学校に行きたいし、それにここに行きたいと思う言い訳も出来た。
それに湊と一緒にならどんなことだって出来る気がする。
受験なんだから一緒に受けたって良いことなんて1つもない。
そんなことは分かっている。
けど、湊がいればそんな理屈なんて関係なしにうまくいくだろう。
そう、湊がいてくれれば、どんなことだって……
「俺もここ受けるわ」
「陽翔ならそう言ってくれると信じてたよ」
「あっ!! 今日親に早く帰ってこいって言われてたの忘れてた。悪い、先に帰るわ」
俺は机の横に掛けていた鞄を手に取ると小走りしながら教室を出る。
#####
「……よかった。これでまだ3年間は陽翔と一緒にいれる」
内容と雰囲気こそ安堵の色を示しているが、その独り言は自分が、いや陽翔も含めて月皇に入るということがまるで確定事項かのように言っており、落ちることを疑っていないように感じる。
そんな湊にクラスメイトの女子中学生らが寄ってくる。
「今日皆でカラオケに行こうってなったんだけど、天宮君もどうかな?」
少しでも彼にお近づきになりたいという考えが透けて見える。
「ごめん、今日はちょっと用事があるんだ」
彼女らは『そっか』っと残念そうな雰囲気を出す。
でも、無理を言って彼に嫌われたくない為、しつこく話しかけることはせず、彼から離れて他の女子中学生と一緒に教室を出て行く。
湊は彼女らがいなくなり誰もいなくなった教室に残り続けていた。
「…………いっつも鬱陶しんだよ、豚どもが。いちいち話しかけてくんなや。暇があったらゴキブリみたいにわらわら寄ってきやがって。だいたいあんなことがあったというのによくもまあ俺にに近づいてこれるよな。ほんと、ブチ殺したくなる」
「そもそもあの豚どもは品性を保って行動することが出来ないのか。……いや、そもそも気に入らないことがあると癇癪を起こすゴミクズ共に期待するだけ無駄か。昨日まで仲良く話してたくせに、思い通りにいかないと直ぐに裏切ろうとし、騙し、欺き、他者を貶めようとする。人を蹴落としてしか、自分の価値を証明出来ない正真正銘のゴミクズだからな。こんなやつらと生物学上は同じ人間に分類されるとか、反吐が出そうだ」
そこには、普段の彼を知るものからすれば信じられない光景だった。
嫌悪感を隠そうともせず、唾棄するように口を開く彼の姿は。
今の彼の姿を見れば、幻滅するか現実を直視できないかのどちらかだろう。
「……いや、俺も所詮あいつらと同じ穴のムジロだな。月皇にいくのはより良い異性と出会うためだって。はっ、何言ってんだか。本当はそんなこと興味ないくせに。親友にすら嘘をつき、騙し、欺く俺があいつらと一体何が違うんだ。むしろ親友と思っているのに本当の自分は出さず、常に欺き続け、その上たびたび騙す俺の方が罪深く、薄汚い存在じゃないか。ほんとどうしようもないクズだよ、俺は。でもさ陽翔、みんなが相性の良いペアになれば、少なくても学校では鬱陶しい豚どもがこっちによって来ずにすみそうだからな。豚と一緒に暮らさないといけないのは苦痛でしかないが、1人だけならどうとでもなる。普段の日常が邪魔されなければそれでいい。それに親友を騙し続けている俺が、苦痛なく日々を送ろうなんて烏滸がましいにも程があるしな」
先程まで、女子をボロクソに罵っていたのに、突如自分を蔑み、陰りを落とす湊。
その情緒の不安定さは人を殺してしまってから、突如冷静になって、やらかしたことの重大さに気づく愚か者を思わせるかのようだった。
「……でもまぁ、本当に相性の人と出会えるというのなら、次こそはうまくやってみせる。同じ失敗はもうしない。今度こそ──────…………いや、何考えてるんだ、馬鹿か。そういうのはやめようと決めたんじゃないか。ほんと救いようのない奴だ。……これほど罪深い俺が誰かかを愛し、ましてや愛されようなんて一体どの口が言ってんだか。お前だってそう思うよな、──」
他に誰もいない教室で誰かに共感を求めるような湊の言葉は誰の耳にも届くことはなく、虚しく消えていった。
面白い、続きが気になると思って頂けたなら下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして下さるとモチベーション向上にも繋がるので嬉しいです。
また、カクヨムでも投稿しているので、よければそちらでも評価していただけると嬉しいです。




