現実は諦めが肝心
俺たち3人は、今日から住む住戸のリビングに集まっていった。
正直何を話せば良いのか分からない。
さて、これからどうしようか
そんなことを思いながら、先ほどの先生との一幕を思い出す。
「──お前たちのDNA同棲のメンバーはこの3人だ」
…………え!?
「じょ、冗談ですよね?」
わざわざ放課後、残らせてこんな冗談を言うほど先生も暇ではないことは分かっていた。
でも、正直冗談であってほしかった。
しかし、そんな願望は即座にかち割られた。
「こんな状況で冗談をいうわけないだろ。そう思いたくなる気持ちは分かるが……」
「何故、3人なんですか?」
DNA同棲を実施している学校は、入学者の男女割合が半々になるようにしている。
女子が1人だけ余ると言った状況にはならないはずだ。
「実はな、今年この学校に入学する予定だった子が急遽入学できなくなってしまってだな、それが原因で1人余る状況になってしまったんだよ」
なるほど。入学辞退者が出たのか。
基本的にこの学校に受かった場合、この学校に入学しなくてはならないが(まぁ、そもそもこの学校に受かって、この学校以外に行きたいと思う人はまずいないが)特別な事情がある場合ときは、辞退できるからな。
その入学辞退した子かその周りには、かなり深刻な問題が発生したのだろう。
しかし、それなら新たに1人入学希望者を募集すればいいだけでは
「では、何故新たに生徒を募集しなかったのですか? 1人くらい募集すれば入りたいと思う人が続出したと思うのですが……」
俺と同じことを疑問に思った百合園が質問する。
「この学校に限らず、DNA同棲を取り入れてる学校の入試形式ってかなり独特だろ。だからさ、後から新たに入学者を探すと色々面倒なことになるんだよ」
この学校の入試の合否に関わる一番大きな要因は、遺伝子相性だ。
当然、普通の学校のように学力テストもあるが、ほとんどお飾りでそこで落とされる人は滅多にいないと聞く。
学力テストで落とされることが滅多にないので、軽い気持ちで受験できてしまい、毎年とんでもない倍率をたたき出している。
そんな多くの受験生をDNA診断し、相性の良い男女を合格させていくと言ったシステムになっている。
「面倒なこと?」
「後から1人募集するとさ、他のDNA同棲の学校に落ちた人まで応募してくるからとんでもない数になるだろ。それをDNA診断するのは、時間が全然足りない。入学辞退されたのも入学式の1週間前だったしな」
確かに、新たに1名募集したら全国各地から応募がくるな。
家がどれだけ遠くても、ここでは寮暮らしになるから困らないもんな。
多くの学生のDNA診断をしなくてはならない都合上、普通の学校より何ヶ月も前から入試が開始する。
「それに文句を言ってくる人も出かねないんだよ。特に女子の親が『娘の方がその余った子より遺伝子相性が良いペアを作れるかもしれないから、娘も検査しろ』って言ってくる可能性が高いからな」
あぁ、確かに出てきそうだな、そんなモンスターペアレント。
娘にDNA同棲を受けさせたいと思っている親ほど、言ってきそうだな。
だからといって、一度合格判定を出した余った女子の合格を取り消すわけにもいかない。
八方塞がりか。
一番文句が言われないやり方がこのDNA同棲のメンバーを3人にするって方法だったわけだ。
だけど…………
「俺たちや俺たちの保護者から文句を言われるとは思わないのですか?」
「そりゃ、言われると思っているよ。だけど、他の時に比べたらまだ軽傷で済むからな。それに安心してくれ。ちゃんと3人分の寝室を用意できてるぞ。本来別々だったのを工事して1つの住戸にしたから、他のペアたちのより2倍広いぞ」
なるほど、1週間遅れたのは、俺たち用に2つの住戸を1つにするために、工事してたからか。
これで、俺たちもそれぞれ寝室を手に入れることが出来て、安心だな。
……って、いや違うだろ!
「別に部屋の広さはどうでもいいんだよ! DNA同棲を3人ペアで受けたら、何の意味もないだろ!」
余りにも的外れなことを言うから、思わず敬語を使わずにツッコんでしまった。
しかし、俺の気持ちも察してほしい。
同棲生活や結婚生活を体験しようという一面を持つ取組で男子1、女子2の状況で体験してどうするというのか。
ここは、1夫1妻しか許されていない日本だ。
女子2人と体験しても時間の無駄とまでは言わないが、意義の1つを失ったのは確かだろう。
「おいおい、意味はあるぞ。なんたって男子高校生の夢であるハーレムをその身をもって体験できるんだぞ。こんな幸せなやつお前以外いないぞ」
確かに。見方を変えれば、俺は、女子2人と結婚生活を体験できるハーレム野郎だ。
先生も女の身でありながら男のロマンというものをよく分かっている。
こんな良い思いを出来るのは俺だけだろう。
俺は幸せ者かもしれない。
……ってそんなわけあるか!!
「女子2人とDNA同棲するとか気まずくなるか、もしくは俺はいないものとして扱われるか、それとも友人のように気さくな関係なるかのどれかで、この制度の目的の1つである『同棲生活を体験しよう』というのは無理ですよね。3人でやるならただのシェアハウスですよね。俺をうまいこと丸めこもうとしてませんか?」
「そんなことないぞ」
先生は白々しくそう言う。
このまま、霜月先生に聞いても埒が明かない気がしたので、2人に聞く。
「百合園さんと白雪さんもこんなの嫌だよね」
彼女らだって、DNA同棲がしたくてこの学校に入ったんだ。
こんな特殊な状況は嫌なはず。
俺を援護してくれるに違いない。
そんな俺の思いは予想外にも裏切られた。
「私はこのままでかまわないわ」
……はい?
百合園さんは現状維持の意思を示した。
百合園さんが現状に肯定的なことに驚いた俺は、思わず白雪さんの方を向く。
「私も、このままで大丈夫です」
……なんで?
この話し合いに一度も参加してこなかった白雪さんも少し弱々しい声で了承の意思を示す。
「百合園と白雪からはOKの言葉はもらったし、この件は無事終了だな」
「いや、俺は了承していないんですが!?」
「知らないのか。この日本は民主制なんだ。多数意見が優先されるのは当然だろ」
いや、そうだけどこの件とは関係なくね!?
こういった件では当事者の意見が一番大事だよね!?
それに少数意見の尊重はどこいった!?
まぁ、今更どうこう言ったところでこの決定が覆るとは思えんし、しょうがないか。
もう、二部屋を一部屋にする工事は終わってるし。
こういうときは諦めが肝心やしな。
「よし、私はもう必要ないな。今日から3年間一緒に暮らすんだから、家に着いてからしっかり話し合えよ」
そう言うと先生は『では、また明日な。気を付けて帰れよ』と言いながら教卓の上にあった学級日誌などを手に取り、教室から出て行く。
正直かなり気まずいが、無言のままでいるわけにはいかないので、2人に話しかける。
「……このメンバーでDNA同棲するみたいだな。お互い色々あると思うけど、とりあえずは寮に行こっか」
『聞きたいことはあるけど、話し合いは後でいいしな』と呟きながら、教室を後にした。
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