表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

冬・白い雪道の上で・黒いフンにまみれて

掲載日:2022/02/07

 仕事でいいことがあった。

 大したことじゃない。

 時々あること。

 知らなかったことを知っただけ。

 その魔法の、人の手に成ることを知り。

 知れば、それは、ふるい友のように、私の手になじんで。

 今では私の現実。

 その魔法を。

 現実になった魔法を。

 振るって。

 私は敵を一網打尽。


——今日の仕事はおしまい!


 そうして私は上機嫌で。

 夕暮れの道を。

 雪の積もった道を。

 その上を。

 飛ぶ。

 背中の両翼。

 それは今さっき生えてきた。

 大きな翼。

 片方だけで、私の身長の倍はある。

 翼を。

 翻して。


 空は薄いピンクに染まり、雲は七色に輝いた。

 見上げる私は、色あせた地上のことなど、すっかり忘れて。

 その白さも。

 冷たさも。

 滑りやすい、ということも。


 あっ——と言うもなく、私の背中は地面に着いた。

 雪の上に転がった。

 翼は役に立たなかった。

 陽光を失った雪道が、薄暗い世界をぼんやりと照らす。

 古ぼけた民家。

 ブラインドの下りた商店。

 道路標識。

 ほっそりとした女学生の、もこもこに着込んだシルエット。

 がたがたと走る自動車。

 立ち話をするおばあさん。

 小学生の寄り道。


 私は立ち上がった。

 白い景色を夢に見て。

 けれど、立ち上がった私が見たものは、雪の中にぽつぽつと散らばる————


 ————何か小さな黒いもの。


 いつも着ているコート。特にお気に入りというわけではない。

 大きめの手袋。安心感がある。

 ラクダ色の靴。これも、特に冬道用というわけではない。


——そんなことより、これは、なんだろう?


 答えはすぐに分かった。

 鳥のフンだ。

 黒くて丸くて数が多くて、白い雪道の上では、とても目立つのだ。

 電線の上に並んで、そこから落とすのだ。

 見れば、私の前にも後ろにも、ばらばらと、広がる。

 黒い水玉模様。

 雪の上に。

 続く。

 これが私の現実。


 頭の上から声がした。

 鳥の鳴き声だ。

 小さな鳥たちの小さな影が、黒い電線を埋め尽くして、灰色の空を覆い隠す。

 鳥たちは。

 後から後から集まって。

 とうとう空が見えなくなった。


 違う。

 空じゃない。

 鳥じゃない。

 これは雲。

 雪を降らせる。

 群れ。

 もう。

 すぐ。

 今。

 そこに。

 吹雪が。

 来た。


 黒い吹雪がやってきた。

 誰かの声が聞こえた。

 白い道は見えなくなった。

 荒れ狂う風の中に。


 民家の壁に吹き付けた。

 商店の窓に、ばちばちと、当たった。

 道路標識は、何が書かれているのか、もう分からない。

 女学生は小さな立ち木。黒い氷のモンスター。

 フンに埋まって動けない自動車。

 倒れるおばあさん。

 小学生たちは飛ばされた。


 私は。

 風の中に。

 立ち尽くして。

 翼を。

 広げた。


 人間たちは皆、フンの下に埋まってしまった。

 翼を持たぬ者たちは、地底の国へと旅立った。

 宵に目覚めた神々は、黒いフンの道を見て。


 降り続く黒い雪を見て。


 知るのだ。


 真実を。


 私は飛んだ。

 翼を広げて、飛んだ。

 私の顔にも体にも、翼にも、フンが付いた。

 鳥たちは、いつまでも、いつまでも、騒がしく、鳴いていた。

 特に大きな群れを目指して、私は飛んだ。

 やがて、遠くに浮かんだそれは、鳥の雲は。

 本当の姿を現す。

 私の目の前に。


 小鳥たち。

 カラスたち。

 ニワトリたち。

 ワシ、タカ、ハト、カモメたち。

 空を飛べない鳥たちも。

 鳥ではないコウモリたちも。

 今では絶滅してしまった鳥たちも。

 翼竜も、始祖鳥も、骨だけになった者たちも。

 生きている者はフンを飛ばし。

 そうではない者は骨を飛ばし。


 ばらばらと。

 ばらばらと。

 降り積もる。

 お祭り騒ぎ。


 フンの中で。

 それを眺める。

 植物の種は。

 きたるべき日を。

 待っている。


 私も鳥たちと一緒になって、おなかに力を入れてみた。

 何も出ては来なかった。


 ああ。

 鳥よ。


 私は。


 どこまでも続く白い道が。

 無限の黒に染まるとて。


 今日も私は便秘気味。

いいね機能が実装されましたね。

連載で、読者の反応を分析するには便利だろうと思いますが、短編では……どうでもいいね。

ポイントの方が大事です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

↓同じ作者の他の作品です↓

流れ星が見たい! 〜考えて、作って、願い事をする〜

太郎(たろう)と優花(ゆうか)と樹(いつき)は仲良し三人組。

ある日、優花が、流れ星が見たいと言い出します。

三人は流れ星を見られるのでしょうか。

彼らの消えた世界で、○○を探して

女は旅立ち、男たちは残された。

ロシアからミサイルが飛んできて、アメリカ人もロシア人も混乱した。

俺たちはこの世界に残り、女は旅を続ける。

― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ