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冬・白い雪道の上で・黒いフンにまみれて

 仕事でいいことがあった。

 大したことじゃない。

 時々あること。

 知らなかったことを知っただけ。

 その魔法の、人の手に成ることを知り。

 知れば、それは、ふるい友のように、私の手になじんで。

 今では私の現実。

 その魔法を。

 現実になった魔法を。

 振るって。

 私は敵を一網打尽。


——今日の仕事はおしまい!


 そうして私は上機嫌で。

 夕暮れの道を。

 雪の積もった道を。

 その上を。

 飛ぶ。

 背中の両翼。

 それは今さっき生えてきた。

 大きな翼。

 片方だけで、私の身長の倍はある。

 翼を。

 翻して。


 空は薄いピンクに染まり、雲は七色に輝いた。

 見上げる私は、色あせた地上のことなど、すっかり忘れて。

 その白さも。

 冷たさも。

 滑りやすい、ということも。


 あっ——と言うもなく、私の背中は地面に着いた。

 雪の上に転がった。

 翼は役に立たなかった。

 陽光を失った雪道が、薄暗い世界をぼんやりと照らす。

 古ぼけた民家。

 ブラインドの下りた商店。

 道路標識。

 ほっそりとした女学生の、もこもこに着込んだシルエット。

 がたがたと走る自動車。

 立ち話をするおばあさん。

 小学生の寄り道。


 私は立ち上がった。

 白い景色を夢に見て。

 けれど、立ち上がった私が見たものは、雪の中にぽつぽつと散らばる————


 ————何か小さな黒いもの。


 いつも着ているコート。特にお気に入りというわけではない。

 大きめの手袋。安心感がある。

 ラクダ色の靴。これも、特に冬道用というわけではない。


——そんなことより、これは、なんだろう?


 答えはすぐに分かった。

 鳥のフンだ。

 黒くて丸くて数が多くて、白い雪道の上では、とても目立つのだ。

 電線の上に並んで、そこから落とすのだ。

 見れば、私の前にも後ろにも、ばらばらと、広がる。

 黒い水玉模様。

 雪の上に。

 続く。

 これが私の現実。


 頭の上から声がした。

 鳥の鳴き声だ。

 小さな鳥たちの小さな影が、黒い電線を埋め尽くして、灰色の空を覆い隠す。

 鳥たちは。

 後から後から集まって。

 とうとう空が見えなくなった。


 違う。

 空じゃない。

 鳥じゃない。

 これは雲。

 雪を降らせる。

 群れ。

 もう。

 すぐ。

 今。

 そこに。

 吹雪が。

 来た。


 黒い吹雪がやってきた。

 誰かの声が聞こえた。

 白い道は見えなくなった。

 荒れ狂う風の中に。


 民家の壁に吹き付けた。

 商店の窓に、ばちばちと、当たった。

 道路標識は、何が書かれているのか、もう分からない。

 女学生は小さな立ち木。黒い氷のモンスター。

 フンに埋まって動けない自動車。

 倒れるおばあさん。

 小学生たちは飛ばされた。


 私は。

 風の中に。

 立ち尽くして。

 翼を。

 広げた。


 人間たちは皆、フンの下に埋まってしまった。

 翼を持たぬ者たちは、地底の国へと旅立った。

 宵に目覚めた神々は、黒いフンの道を見て。


 降り続く黒い雪を見て。


 知るのだ。


 真実を。


 私は飛んだ。

 翼を広げて、飛んだ。

 私の顔にも体にも、翼にも、フンが付いた。

 鳥たちは、いつまでも、いつまでも、騒がしく、鳴いていた。

 特に大きな群れを目指して、私は飛んだ。

 やがて、遠くに浮かんだそれは、鳥の雲は。

 本当の姿を現す。

 私の目の前に。


 小鳥たち。

 カラスたち。

 ニワトリたち。

 ワシ、タカ、ハト、カモメたち。

 空を飛べない鳥たちも。

 鳥ではないコウモリたちも。

 今では絶滅してしまった鳥たちも。

 翼竜も、始祖鳥も、骨だけになった者たちも。

 生きている者はフンを飛ばし。

 そうではない者は骨を飛ばし。


 ばらばらと。

 ばらばらと。

 降り積もる。

 お祭り騒ぎ。


 フンの中で。

 それを眺める。

 植物の種は。

 きたるべき日を。

 待っている。


 私も鳥たちと一緒になって、おなかに力を入れてみた。

 何も出ては来なかった。


 ああ。

 鳥よ。


 私は。


 どこまでも続く白い道が。

 無限の黒に染まるとて。


 今日も私は便秘気味。

いいね機能が実装されましたね。

連載で、読者の反応を分析するには便利だろうと思いますが、短編では……どうでもいいね。

ポイントの方が大事です。

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