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93話 防衛という選択

 林を抜け、イムルの案内で城下町カーラーンの東に出たエンデヴァルドを待っていたのは、諜報部の小柄な女性ラウリーだった。


「お急ぎください。 中央軍の兵士が迫っております 」


 一際大きな体の馬の背からそう告げたラウリーに、エンデヴァルドは怪訝な表情を見せる。


「随分準備のいいことだな。 誰の策略だ? 」


「誰でもありませんが、強いて言うならシュテーリア様とハンナさんでしょうか。 事情は走りながら説明します、乗って下さい 」


 急かされて彼が馬に乗ると、ラウリーは即座に馬を走らせた。 真っ直ぐ目指しているのはエレンのスレンダンの屋敷。 中央軍の追跡を振り切るため、体力のあるこの馬を用意したのだと言う。


「ボクはラウリー。 裏ではシュテーリア様直属の諜報員として、ハンナさんとの情報伝達役を務めています 」


「ああ? なんだよ…… あの雪女とモーリスの嫁はグルだったんかよ。 ユグリアの事なんか筒抜けじゃねーか 」


 やれやれとため息をつくエンデヴァルドに、ラウリーはクスッと笑みを溢す。


「フフ…… 我が主は『腐れ勇者がやっと動き出した』とお喜びになっていましたよ 」


「それなんだがよ、お前はシュテーリアの言う『彼女』について知らねーのか? 」


「はい、どうやら口には出来ないものなんだとか。 ボクらも色々探ってみたんですが、リヒート公が関係している以外は分かりませんでした 」


「またリヒートか…… おいボクっ娘、カーラーンへ引き返せ! やっぱり一発殴らねーと気が済まねぇ! 」


 ラウリーは襟首を引っ張る彼に振り回されるが、手綱はしっかりと操って進行方向を変えない。


「中央と西の混合軍がエレンに進行中なんです! 原因はあなたなんですから、先ずはそれを食い止めて下さいよ! 」


「なんだと? 」


 エンデヴァルドは大人しくなり、『詳しく話せ』とラウリーを持ち上げて後ろ向きに座らせ正対する。


「騎手を後ろ向きになんて…… まぁいいですけど! 西のゲッペル隊長が指揮を執って、エレンに向かっていると情報が入りました。 『逆賊の掃討』と大義名分を掲げていますが、目の上のたんこぶである賢者様を始末するつもりなんでしょう 」


「なぜそこで耄碌ジジイの名が出てくる? 隠居してるんだから関係ねぇだろ 」


「隠居していても、賢者様を慕う勢力は未だ健在です。 新王はその賢者様サイドの勢力を、この機に一掃したいのではないかと 」


「ジジイサイドの勢力だと? 」


「はい。 賢者様にずっと見守られていたのに、まさか知らないとは言いませんよね? 」


「知らね 」


 頭を抱えてため息をつく彼女を余所に、馬は街道を進む混合軍を横目に森の中をひた走る。


「東の鍛冶組合、ベルナローズの北方面軍、メゾットの行商連合と様々ですが、賢者様の隠居と同時に前国王には一言で従わなくなった者達です。 ボクやハンナさんもその内なんですけど 」


「つまりは、ジジイがハメられた事を知った連中が反意を見せたってことだな? 」


「やはり、賢者様は新王にハメられられたんですね…… 詳細は分かりませんでしたが、これで色々繋がりました 」


 ラウリーはヒョイと体の向きを直して、更に馬のスピードを上げる。 エンデヴァルドは振り落とされないようしっかり掴まっていたが、ふと鞍を掴んでいた手を離した。


「ベルナローズのアーバンに伝えろ! ここまでエターニアを持って来いってなぁ! 」


 馬から飛び降りた彼は、そのまま森を出て進軍している混合軍へと走り出す。


「なっ!? バカですかあなたは! 」


「エレンやメゾットで戦闘するわけにいかねぇだろ! メゾットの手前で食い止めておいてやる! 」


 そう言うと彼は自身の周りに風を起こし、竜巻に乗って上空へと舞い上がった。


「ムチャクチャですね…… ですが、町人を巻き込まないという配慮は正解かもしれません 」


 ラウリーはパニックになっていた馬の首をポンポンと叩いてなだめる。


「ボク達の役目は伝えること。 彼を信じて、頑張りましょうジーノ! 」


 ジーノと呼ばれた馬は高くいななき、再び森の中を風のように疾走し始めた。





 道行く人々を押し退けるように進軍していた中央と西の混合軍は、突然隆起した岩壁に進路を阻まれてパニックになっていた。


「よぉゲッペル、まだ元気そうだな 」


 岩壁の上に仁王立ちするエンデヴァルドは、軍の中央で重歩兵隊に囲まれているゲッペルを薄ら笑いで見下ろしていた。


「魔王! こんな所にいやがったのか! 」


「わざわざ出てきてやったんだ、せいぜい足掻いて楽しませてくれよ? 」


「黙れ! 国王を殺害し、このシルヴェスタを陥れようとする逆賊が! 」


「逆賊はどっちだ! 真実も知らねぇのにデカイ口を叩くんじゃねぇ! って、デカイのは顔だったか? ウハハ……! 」


 ゲッペルは顔を真っ赤にして怒り、エンデヴァルドを引きずり下ろすよう命令を出す。 炎魔法を宿した矢が雨のように降り注ぎ、暴風がそれを吹き飛ばして、水柱が鎧の集団を巻き上げる。


「オラァどうした! 王国軍が正しいのならオレを潰して証明してみせろや! 」


「ぬかせ小僧! 数こそが正義、貴様一人で何が出来る! 」


 かくして、メゾットの町の目と鼻の先で、1対1000の戦闘が始まったのだった。  

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