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8話 たーまやー!

 陽が落ちた森の一本道を、鉄格子の牢を積んだ馬車はガラガラと音を立てて進む。 馬車の周囲を松明を掲げた男達が囲み、辺りを警戒しながら守り歩いていた。 鉄格子の中には手足を縛られ、猿ぐつわをされた少女が横たわっている。 少女の頭には尖った耳。 ワーウルフという魔族だった。


「おーい! オレも交ぜてくれぃ! 」


 馬車に追い付いたエンデヴァルドは、松明を片手にその集団に入っていく。 険しい顔だった馬車の一団だったが、特に断ることもなく無言でエンデヴァルドを迎え入れた。


「これ、どこまで運ぶんだ? 」


 男達はエンデヴァルドに目線を向けるが、誰一人として答える者はいない。


「なあ、聞いてるんだ。 どこまで…… 」


「あそこを越えた先だよ。 黙って歩けよ、蟲が寄ってくるだろうが 」


 一人の男が指を指したのは月に照らされた遠くに見える大樹だった。 町から歩いて一時間、目的地はまだまだ遠い。


「まあこの辺でいいか。 もう飽きた 」


 エンデヴァルドは突然横を歩いていた男を殴り倒した。


「な、何をするんだ! 」


 松明をエンデヴァルドに向けてビビる男達。


「あぁあ? ワーウルフの小娘を拉致っといて何をするんだはねーだろ。 それはこっちのセリフだ 」


 片手で鉄格子を掴み、荷台に足をかけてエンデヴァルドは気合いで馬車から牢を一人で引摺り下ろした。 ワーウルフの少女は牢の中で転がり、舞い上がった土煙に咳き込む。


「なんてバカ力だ…… 」


「お前! これがどういうことなのかわかってるのか!? 」


 男達は一斉にエンデヴァルドに罵声を浴びせる。


「それは小娘を生け贄にして自分等が助かろうともがいてることを言ってるんか? 」


「仕方ないだろう! こうしなければアベイルは蟲に食われてしまう! 」


「魔族を一人残らず追い出したお前らの責任だろうがドアホゥ! こんなことでしか町を守れねぇってんならいっそ食われてしまえ! 」


「き…… 貴様ー! 」


 逆上した一人の男がエンデヴァルドに鎌を振るう。 だがエンデヴァルドはいとも簡単に鎌を弾き飛ばし、襟首を掴んで横の草むらに男を放り投げた。


「気に入らねぇんだよ、その腐った根性がよ! 」


 エンデヴァルドは腰に据えた剣を抜く。 聖剣エターニアと呼ばれる、かつて魔王を討ち滅ぼしたとされる勇者一族に伝わる宝剣だ。 両手に聖剣エターニアを構え、渾身の力で鉄格子を一閃した。 まるで枝を伐るように真っ二つになった鉄格子はバラバラになって宙を舞い、重たい音を立てて地面に落ちる。


「この娘はオレが預かる。 文句があるならかかってこい 」


 そう言ってエンデヴァルドはワーウルフの娘を肩に担ぎ上げ、男達に背を向けた。


「ち、長老に逆らっては生きていけないんだ! 邪魔をしないでくれ! 」


 ピタッとエンデヴァルドの足が止まった。 ゆっくりと振り返り、男達を見据える。


「その長老のお話、聞かせてくれませんか? 」


「なんだよ、宿に先に入ってろって言ったろうが 」


 いつの間にかエンデヴァルドの横には、後ろ手でニコニコとするマリアの姿があった。 マリアはエンデヴァルドの言葉を無視して男達に問いかける。


「長老に逆らうとどうなるんですか? 八裂き? (はりつけ)? それともこの子と同じように生け贄…… とか? 」


 ニコニコしながらえげつない処刑方法を言うマリアに、男達はドン引きして口をつぐむ。 全然進展のしない状況に、仕方ないですねとマリアは掌を男達に向けた。 その手の先に赤く輝く魔方陣が描かれる。


「エル・バースト! 」


 閃光と共に魔方陣から放たれた小さな光の粒は、男達の間をすり抜けて森へと消えていった。


「…… なんだ? 今の魔法 」


「不発か? ビビらせやがって! 」


 男達がヘラヘラと笑い始めたその時だった。


  ちゅどおおぉぉーん


 一行が目指していた大樹一帯が爆煙を上げて吹き飛んだ。


 「話したくないんだったら別にいいですけど 」


 マリアはニコッと男達に微笑む。 男達はもうもうと立ち上る爆煙にあんぐりと口を開け、その場にヘナヘナと座り込む。


「おーぅ…… 派手にやりやがって。 これじゃコソっと小娘を逃がしてやろうとわざわざここまで来た意味がねーじゃねぇか! 」


「そんなことはないです、突然起きた爆発現象に牢屋ごと木端微塵に吹き飛んでしまったで通じるじゃないですか 」


「そんな現象あるか! 」


 食ってかかるエンデヴァルドにマリアはニコニコ顔でスルーした。


「お、お前ら一体…… 」


 腰を抜かして座り込む男達。 


「あ? 通りすがりの勇者だ 」


 吐き捨てるようにエンデヴァルドは言い、ブチブチとマリアに文句を言いながらその場を去っていった。





「あら…… たーまやー! 」


 宿屋の部屋の窓からルーツ山脈を眺めていたセレスは、爆発音と立ち上る爆煙に掛け声を入れる。


「なんです? それ 」


 不思議そうに問うグランに、セレスは笑って済ませる。


「あの…… 勇者様、大丈夫でしょうか? 」


 ふぅー、と細長いパイプをふかすセレスの手が止まった。


「それはエバ様が怪我してないかってこと? それとも…… 」


「今の山の爆発、まさか勇者様が! 」


「何を焦ってるの? エバ様ならきっとピンピンして帰ってくるわよ。 あの爆発は多分マリアの魔法でしょ? 」


 セレスの言葉に青ざめるグラン。 その肩にレテの手が置かれた。


「兄さん、セレス様には話しておくべきだと私も思う 」


 グランはしばらく考え、レテにうん、と頷くとセレスにその理由を話始めた。






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