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88話 ヴェクスターの真意

「ダークエルフの生き血だ。 人格崩壊を起こし、肉体が化け物と化した胎児が女の腹を食い破って出てきた上モノだ 」


 ヴェクスターは小瓶を投げ捨て、クククと声を殺して卑屈に笑う。


「…… わざと両族で子供を作らせやがったな? お前が! 」


 ビキビキと音を立てそうなくらいエンデヴァルドの顔に血管が浮き出る。 睨みつけるその目はヴェクスターを見据え、その体に収まりきらない力が地響きを起こしていた。


「ククク…… この時をどれだけ待ち望んだか…… ククク…… ハハハ…… 」


「あぁ!? 」


「さあ、国王フェアブールトを葬りたまえ! 急がないと手遅れになるかもしれんぞ? 」


 ヴェクスターは変わり果てた姿のフェアブールトを下階に蹴り落とした。


「手遅れ? なんの真似…… 」


 エンデヴァルドが眉を潜めたその瞬間、腹の中をえぐられるような奇声が響き渡った。 その奇声は、250年前にメゾットで起きた、若者達を暴動へと駆り立てた奇声と同じものだったのだ。


「…… 何が起こってやがる…… 」


 咄嗟に耳を塞いだエンデヴァルドは、テラスから城の外を見て目を見開く。 そこでは兵士達が同じように奇声を上げ、殺し合いを始めていたのだった。


「ククク…… ダークエルフの力『テンプテーション』だ。 抵抗力のない者は狂気の虜となり、命が尽きるまで殺し続ける。 元凶を潰さない限り、この地獄は止まることはない 」


「ごちゃごちゃうるせぇ! 結局お前はフェアブールトを殺したかっただけなんだろうが! 」


貴様(・・)が殺さねば意味がない。 だが…… 魔王と同化するとは想定外だったが、よくまあ計画通りに動いてくれたものだ。 感謝するぞ 」


「んだと!? 」


 伸びたゴーレムの手がヴェクスターを捕まえようとしたが、彼は風の魔法で竜巻を起こし、それに飛び込んで回避する。 そのままエンデヴァルドに突っ込んで一閃するが、エンデヴァルドもまた風を纏ってヒラリとかわした。


「アベイルの生贄、おかしいとは思わなかったか? 貴様が見過ごす筈がないと、俺が仕組んだものだ! 」


 ヴェクスターは残ったテラスの足場を飛び回り、エンデヴァルドに連撃を叩き込む。 丸腰のエンデヴァルドは距離を取りつつ、ゴーレムの腕を振り回すが、素早いヴェクスターに翻弄されて肩や足を切り刻まれて着実に傷をつけられていた。


「このクソがぁ!! 」


 エンデヴァルドはテラスを多い尽くすほどの大量の石棘を壁や床から突き出した。 ヴェクスターは竜巻の回転に体を預け、剣を振って石棘を斬り裂く。 


「自分の配下を犠牲にして何がしたい!? 」


 防戦一方のエンデヴァルドは顔を歪めて叫ぶ。 大きくなって身軽ではなくなったことと、連発でイメージグローブを発動させた負担で余裕がなくなっていた。


「配下など捨て駒に過ぎん! 足りなくなれば徴兵すれば良いだけのこと! 」


「ふざけるなぁ! 」


 エンデヴァルドはテラスの床穴から水柱を立ち上げ、その先端を持って鞭のように振り回した。 風切り音を立てて水の鞭を切断したヴェクスターだったが、水流に飲まれて城の壁に激突する。


「命をなんだと思ってやがる! そんなだからフェアブールトだって世代交代を迷ってたんじゃねぇかよ! 」


「黙れ! 貴様なんぞに言われる道理はない! 」


 国王フェアブールトは70歳を間近に迎え、国王の座を退こうと考えていたことをエンデヴァルドは知っていた。 本来なら正規の子息のヴェクスターに譲る筈なのだが、彼を次期国王に立てようとはしなかったのだ。 それはスレンダンからの進言であり、命を軽んじる彼の性格を考慮してのことだった。


「ぐ…… 貴様になぞ王位は渡さん! 」


 そこでフェアブールトは密かに、妾との子ではあるが自分の血を継ぐエンデヴァルドを王位継承者として思いつく。 スレンダンを介して打診を打っていたが、エンデヴァルドは一切を拒否していたのだった。


「王になんか興味はねぇ! なりたきゃ勝手になれよ雑魚が! 」


「父上はそうはさせてくれなかった! 護衛隊長にまで上り詰めたのにだ! 第一中央防衛隊長まで拝命したのにだ! 母上だってこのままでは救えない! 俺の何が悪いのだ! 」


 ヴェクスターは壁を蹴り、竜巻に乗ってエンデヴァルドに突進し突きで左胸を狙った。 エンデヴァルドは突風を起こして避けようとしたが、ヴェクスターの突きは彼の右腕を貫通していた。


「お前そのものが悪いに決まってんじゃねぇか! 」


「がはっ!? 」


 貫かれたうでの激痛に顔を歪めながらも、エンデヴァルドは彼の横顔に張り手を打ち、そのまま床に叩きつける。 その衝撃で床は崩れ、二人は瓦礫と共に下階に落ちた。


「ってーなこの野郎 」


 瓦礫から先に立ち上がったのはエンデヴァルドだった。 刺さったままの長剣を腕から引き抜き、未だ瓦礫に埋もれたままのヴェクスターの前に投げ捨てる。


「お前の考えそのものがガキなんだよ。 地方を回り、この国がどんな状況なのかその目で確かめろ 」


「フ…… 説教などしている暇などないぞ? 」


 その言葉に彼は、背後から迫る異様な気配に振り向く。 廊下の暗がりから現れたのは、もはや人とは言えない姿のフェアブールトだった。


「エン…… デヴァ…… ルド…… 」


 フェアブールトは触手と化した腕を持ち上げ、エンデヴァルドに伸ばす。


「今、楽にしてやる 」


 彼がイメージグローブで止めを刺そうと、地を蹴ろうとしたその時だった。 触手は弾けたように彼に巻き付き、引き寄せて更に巻き付いて彼の自由を奪ったのだ。


「がぁ!? 離せゴルァ! 」


 もがけばもがくほど触手は食い込み、やがてフェアブールトの口であった穴から白い煙が漏れ出す。


「な…… んだ!? 」


「ククク…… そのダークエルフの血は体内に入ると発火するらしくてな。 人間族の内臓を食い、やがて暴発する 」


「なんだと!? 」


「愚王と共に吹き飛ぶがいい! 」


 そう言い残して、ヴェクスターは足を引き摺りながら退却していく。 エンデヴァルドはフェアブールトの横腹を蹴って脱出を試みるが、びくともしないどころか蹴った横腹から炎が吹き出し始めたのだ。


「冗談じゃねぇ! 」


 エンデヴァルドは自分を巻き添えに水柱を立ち上げるが、水中でも吹き出した炎を消すことは出来なかった。 フェアブールトは雄叫びを上げ、目や口からも炎を吹き出し始める。 ヴェクスターの言った暴発は間近だった。


「悪ぃマリア…… 帰れそうにもねぇ…… 」


 フッと力を抜いて諦めたその時、彼とフェアブールトの周りに冷気が漂い始める。


「エンデヴァルド! 」


 そこには剣に魔力を溜めたシュテーリアが走り込んできていた。


「来るんじゃねぇ! 爆発す…… って、お前スケスケじゃねぇか! 」


 彼女が身に付けていた白のドレスは、水で濡れて体に張り付き下着が透けていたのだ。


「下着などいくらでも見なさい! ですから最後まで足掻きなさい! 諦めてはなりません!  」


 シュテーリアは渦巻く水柱に飛び込み、全力で魔力を解放した。 一瞬で水柱は凍りつき、エンデヴァルドと自らを氷柱に閉じ込めたのだ。


「がああぁ!! 」


 氷柱の中でエンデヴァルドは渾身のイメージグローブを発動させる。 床から突き出た槍のような鋭い岩が、フェアブールトの胸を串刺しにした瞬間だった。


 フェアブールトは肉片を撒き散らし、砲撃を受けたかのようにカーラーン王城の3分の1を吹き飛ばしたのだった。

   

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