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86話 突入

 転送ゲートをくぐったエンデヴァルドは、カーラーン王城の横に建つ大聖堂に出た。 控えていたカーラーン側の転送係二人は、見知らぬ彼の姿に驚いて武器を構えたが、彼が軽く威嚇すると腰を抜かしてその場にへたり込む。 フンと鼻を鳴らして大聖堂を出ると、カーラーン王城が正面だった。


「あん? 」


 フルプレートアーマーの大柄な門番二人が警備している王城の正門の向こうには、数台の馬車が横付けされていて、その中には勇者の紋章をあしらった馬車が一台あったのだ。


「やっぱりここか 」


 エンデヴァルドは怒りを抑えながら正門へと足を進める。 大聖堂から堂々と近付いてくる彼を門番が見つけ、お互いの槍をクロスさせて行く手を阻んだ。


「止まれ。 転送ゲートから来たようだが、どの方面からだ? 」


 門番達はエンデヴァルドの姿がドラゴニュートだと気付いていない。 武器も装備していない優男に、どこかの町からの使者だと思ったようだ。


「おい、そこの馬車の持ち主は誰だ? 」


 容姿に似合わない汚い言葉遣いに、門番達はピクッと眉を上げる。


「勇者リヒート様がいらっしゃっている。 それがどうした? 」


「そうか。 下がっていいぞ 」


 その言葉を聞いて門番達は顔を見合せ、片方がおどけるように肩をすくめて見せる。


「ハハ…… 青年、冗談も大概にしないと痛い目にあ…… がっ!? 」


 頭一つ分高い位置から目下ろしていた門番が、彼の頭を鷲掴みにしようとしたその時、彼はプレートアーマーの胸を押して門の壁に叩きつけたのだ。 壁には亀裂が入り、体を強打した門番は気絶してうずくまる。


「なにっ!? 」


 スラッとした体格に油断していたもう片方の兵士は予想外の馬鹿力に驚き、すぐに臨戦態勢を取ったが、彼の回し蹴りで反対の門の壁に蹴り飛ばされて意識を失う。


「悪ぃな、手加減してやる余裕はねぇんだよ 」


 あっさりと門番を片付けた彼は、そのまま馬車に向かって歩き出した。 リヒートの馬車の前面を見ると、右前のフェンダー部分が欠けていて、車体の底面には血を拭き取ったようなシミが出来ていた。


「間違いねぇな 」


 それを確認した彼はイメージグローブでゴーレムの腕を作り出し、リヒートの馬車を豪快に叩き潰したのだった。


 城門からの大きな音を聞き付けて、周辺を警備していた兵士達が集まってくる。


「なんだ! 」


「何者だ貴様! 」


 粉々になった馬車と、その横に立つ彼を見つけ、兵士達はあっという間に彼を取り囲む。


「リヒートはどこにいる? 案内しろ 」


 兵士の一人に向かって臆することなく近寄る彼に、憤慨した兵士達は一斉に襲いかかった。 が、彼の体の周囲から発せられた突風に敢えなく吹き飛ばされていく。


「リヒートはどこだ 」


 彼は倒れた若い兵士の一人に詰め寄る。 その目の瞳孔は赤く光り、身もすくむような威圧感があった。


「あ…… は…… 」


 兵士はブルブルと震え、失禁して気絶してしまった。 別の兵士に聞こうと目線を移すと、その兵士も悲鳴を上げて逃げていく。 方面軍とは違い、城内を警護する中央防衛隊は戦闘訓練は受けているものの、ほとんど戦闘経験がない者ばかり。 得体の知れない力を使うエンデヴァルドは恐怖でしかなかった。


「放てぇ! 」


 城内から光の矢が一斉に放たれた。 逃げ遅れた兵士を巻き添えに彼を狙ったものだったが、だが彼は地面から水柱を立ち上げて、その全てを弾き返す。


「派手にやってるなぁ! 」


 魔導士隊と共に現れたのはゲッペルだった。 彼の威圧感をものともせず全身してくる。


「誰かと思えば『魔王エンデヴァルド』じゃねぇか。 探しに行く手間が省けたぜ! 」


 自慢のアイギスの大盾を構え、巨体にはそぐわない速さで突っ込んで来る。


「リヒートはどこだ? 」


「自分で探せ小僧! 」


 彼の問いに答えると同時に、大盾を僅かにずらして繰り出された槍は正確にエンデヴァルドの胸を狙う。


「そうかよ 」


 丸腰の彼がスッと体を沈ませて槍をかわしたその時だった。 彼の背後には、手のひらを目一杯広げたゴーレムの腕が、城門の柱から突き出されていたのだ。


「ぐぉっ!! 」


 石造りの巨大な手はゲッペルの体を盾ごと掴み、一度振り上げて容赦なく地面に叩きつける。 大地を揺らし轟音を立てて巨大な腕は崩れ、舞い上がる土煙に兵士達は逃げ惑う。 ゲッペルはゴーレムの腕であった瓦礫に埋もれて呻き声を上げていた。


「何の騒ぎだ!? 」


 王城の二階にあるテラスで、国王相手にワインの自慢をしていたリヒートは、小さい地震のような揺れと騒がしい喧騒に欄干から身を乗り出して下を覗き見た。


「なんだあの男…… 」


 エンデヴァルドを中心に輪を作って倒れている兵士と、瓦礫に埋もれた銀色のフルプレートアーマーに目を剥く。 ふとエンデヴァルドが上を見上げると目が合った。


「そこにいやがったのかリヒート 」


 彼は足元の地面を隆起させ、城内を通らずにあっという間にテラスに躍り出る。 『ヒィ! 』と情けない叫びを上げて、リヒートはその場に尻もちをつくのだった。


「おい、なんで女をひき殺した? 」


 見下ろすエンデヴァルドの瞳孔は赤く光り、顔中は血管が浮き出て禍々しさを増幅させている。 リヒートは口をパクパクさせるだけで、声にならない叫び声を上げていた。


「なぜ殺したのかと聞いている 」


 彼がリヒートの胸ぐらを掴もうとしたその時、彼の右腕を氷の刃が襲った。 咄嗟に飛び退いて腕の切断は免れたが傷は深く、更にその傷口から腕が凍り始めていた。


「邪魔すんな雪女 」


 エンデヴァルドに斬りかかったのは、純白のフィッシュテールのドレスに身を包んだシュテーリアだった。




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