83話 ジジイのお節介
「…… はぁ 」
別にエンデヴァルドの事など興味のないジールは、気の抜けた返事をスレンダンに返した。
「あの男、勇者一族とはいえ少し特別な生い立ちでの。 まぁだからと言ってひねくれ者の理由にはならんが 」
「…… はぁ 」
露骨に興味なさげに相槌を打つ彼女にめげず、スレンダンは話を続ける。
「国王フェアブールトの妾との間に生まれた子供での…… 中央軍第一防衛隊長のヴェクスターとは腹違いになる 」
「妾の子ですか…… 王位継承権がない事を根に持ってグレたのですか? 」
「その逆じゃよ。 あやつ自身、勇者一族の血が流れとる事を嫌ってな。 よく妾が住んでおったオルゲニスタを飛び出して、あちこちで悪さをしよった。 要は勇者一族の名を汚したかったんじゃな 」
「浅はかですね。 そんなことをしても何も変わらない…… むしろ奴自身だけが目立って悪者になるだけじゃないですか? 」
フォッフォッと相変わらずの笑い声に、ルクスがヒクヒクと泣き始めた。 ジールでは泣き止まず、ファーウェルに手渡すとピタッと泣き止んで口をパクパクし、指を咥えて『お腹が空いた』とアピールする。 彼女は分かっていたようにエプロンのポケットから哺乳瓶を取り出して勢いよくルクスの口を塞いだ。
「慣れてますね 」
「一応独身ですのよ? 二人ほど生んでますけど 」
子供が二人と言う前に『独身』と言い切る彼女に、ジールはピクッと肩を震わせて苦笑いを作る。
「ともあれ、妾が生んだエセ勇者と言われてその存在が世間に知れ渡り、見かねたフェアブールト王があやつを地下牢に監禁した時じゃった。 母親が何者かに殺されての…… 」
「…… 」
「それからじゃったか…… あやつが各地で弱き者の為に力を振るうようになったのは。 放浪しては行く先々で、種族問わず力のない者達を救う。 それがあやつの、母親に対する謝罪だったのかもしれん 」
「…… 確かにそういう話は耳にしたことはありますが、勇者の肩書きで好き放題やっていたのでは? 」
「変わったのはおおよそ二年前じゃ。 この町で、ビュゼルと言う勇者一族が何者かに殺される事件の少し前からじゃな 」
「それ…… レオンを殺した…… 」
スレンダンは『フム』と頷く。
「あやつがやったことは後の捜査で分かっておった。 が、あやつを敢えて逃したのは儂じゃ。 悪ガキの頃からあやつを見てきたが、やっと勇者らしくなってきおった 」
「…… それを私に聞かせて何を…… 」
「あやつに文句を言う者はごまんといるが、説得できるものは少ない。 あやつを黙らせて、その赤子を連れて来たのはお前さんじゃろ? 」
「黙らせたというか…… 」
スレンダンの表情がフワッと柔らかくなった。
「僅かで良い。 あの男を支えてやって欲しいのじゃ 」
「…… 」
あまり納得はしていなかったが、ジールはスレンダンの言葉に頷くのだった。
スリープの効果が切れて、エンデヴァルドはベッドの上で目を覚ました。
「ちっ…… あのジジイ、余計な事をしやがって 」
小さく舌打ちをした彼は、立てかけられていたエターニアを担ぐと、ドアノブに手をかけて静かに開けた。 その向こうには、紫色の髪のオートマター初号機が復活して待っていた。
「そろそろかと思っての。 迎えにきてやったわい 」
「何がそろそろだ。 さっさと転移魔法でカーラーンに飛ばせ 」
「ふむ…… 頭に血が上ってないだけマシかのう? よかろう、ベルナローズに送ってやろう 」
「ああ? カーラーンって言ったろうが! 」
「ベルナローズから転移ゲートで王城に入ればよかろう? 下手に城下町に飛んで兵に追われるより良いと思うがの 」
『なるほど』と手槌を打って、『早速飛ばせ』と急かす。 いつの間にか白髪と赤髪の二体が囲い、エンデヴァルドを中心にスレンダンは転移魔法を発動させる。
「そうじゃ、ヴェクスターに伝えてもらおうかの。 『首を洗って待っておれ』と 」
「ハハ…… 了解した。 ジール達を頼む 」
「心配するな。 お前さんは思うがまま進むがよい 」
その言葉が彼に届いたかどうかは分からない。 光に包まれて消えていったエンデヴァルドを見送ったオートマター達は、揃って床にへたりこんでしまった。
「大丈夫ですか? ご主人様 」
端で様子を見ていたファーウェルが二号機の背中を支える。
「いささか魔力を使い過ぎたわい…… 少しの間、寝室を封鎖しようかの 」
「では、補充分のクリスタルを取って参ります 」
スッと立ち上がった彼女のスカートの裾を二号機が握った。
「自分でやるから良い。 お前は急ぎユグリアへ向かい、次期国王とマリアを連れて参れ 」
「御意 」
深々と頭を下げてその場を後にしようとした彼女だったが、二号機はスカートの裾を掴んだままだ。
「ご主人様? 」
「その前に膝枕を…… 」
「ジールにしてもらえば宜しいでしょう? ロリが大好物なのですから 」
思いがけないファーウェルの嫉妬に、オートマター達は揃って頭を掻くのだった。
エンデヴァルドが転送されたのは、アーバンやリセリアら北方面軍の部隊長の詰め所だった。 揃って夕食を食べていた最中で、突如テーブルの真ん中に現れた青年の姿のエンデヴァルドに、フォークを咥えたまま一同が固まっていた。
「…… よう、アーバン 」
「エ…… ンデヴァルド? 随分大きくなったような気がするが 」
エンデヴァルドは目の前の鳥の半身焼きを手に取ってかじりつく。
「うきゃわああぁぁ!! 」
盛大に叫び声を上げたのはリセリア。 その叫びと同時にガフェインは槍を突き、エルファスは飛び退いて弓を弾く。
「待て待て待て! 別に奇襲しに来たわけじゃねぇ! 」
かろうじて攻撃を避けた彼の言葉は部隊長達には届かず、リセリアの雷魔法が部屋の壁を吹き飛ばす。 その異変に兵士達が武器を片手に詰め所になだれ込み、エンデヴァルドは四方八方から漏れなく攻撃されるのだった。




